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藍色の蟇(大手拓次)のあらすじ・登場人物

藍色の蟇は黄色い息をはいて

大手拓次 1936年(昭和11年)

文字数
26,766字
読了目安
約54分
表記
新字旧仮名

この作品について

生涯ただの一冊も詩集を出さぬまま没した大手拓次の、没後刊行された遺稿詩集。萩原朔太郎・室生犀星と並ぶ逸材と目されながら世に知られなかった詩人の、濃密で官能的な言語世界がここにある。「藍色の蟇」「陶器の鴉」など、色彩と匂いに満ちた不気味に美しいイメージが連なる。

あらすじ

「森の宝庫の寝間に/藍色の蟇は黄色い息をはいて/陰湿の暗い暖炉のなかにひとつの絵模様をかく」——表題作は、そんな数行で始まる。太陽の隠し子のようにひよわの少年が、葡萄のような眼をして、やわらかいカンガルーの編靴で「行くよ、行くよ、いさましげに」と歩き出す。続く「陶器の鴉」では、なめらかな母韻を包んで襲いくる青鴉に「この日和のしづかさを食べろ」と呼びかけ、「しなびた船」では手のひらの海に巻きこまれてゆく感覚が、「黄金の闇」では醸された酒のような頭と、赤い護謨のようにおびえる唇が歌われる。拓次の詩に一貫するのは、色と匂いと手ざわりが渾然と溶けあった、どこか病んだ官能である。蟇、鴉、蛇、薔薇、香料——執拗に繰り返されるモチーフは、生涯を独身の会社員として過ごした詩人の内側に閉ざされていた世界の濃さを伝える。詩集の後半に置かれた薔薇の連作では、「あをうみの底にひそめる薔薇の花」「微笑の砦もて心を奥へ奥へと包んだ薄倖のばらのはな」といった短い断章が番号を振って並び、ひとつの花にありうるかぎりの姿を与えようとするかのように、変奏がつづけられてゆく。生前に詩集を持たなかった詩人の、これが最初の一冊である。

冒頭部(原文より)

  藍色の蟇 森の宝庫の寝間に 藍色の蟇は黄色い息をはいて 陰湿の暗い暖炉のなかにひとつの絵模様をかく。 太陽の隠し子のやうにひよわの少年は 美しい葡萄のやうな眼をもつて、 行くよ、行くよ、いさましげに、 空想の猟人はやはらかいカンガルウの編靴に。

「藍色の蟇」大手拓次(青空文庫)

末尾部(原文より)

あをうみの 底にひそめる薔薇の花、とげとげとしてやはらかく 香気の鐘をうちならす薔薇の花。 あをぞらのなかに 黄金色の布もてめかくしをされた薔薇の花。 微笑の砦もて 心を奥へ奥へと包んだ 薄倖のばらのはな。

「藍色の蟇」大手拓次(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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