松本たかし句集(松本たかし)のあらすじ・登場人物
能楽師の家に育った俳人の第一句集
- 文字数
- 12,019字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
能楽師の家に生まれながら病のため舞台を離れ、高浜虚子に師事して俳句に専念した松本たかしの第一句集。虚子の序は「雨音のかむさりにけり虫の宿」などを例に、感じを言葉に写す句作りの巧みさを述べる。優美で繊細な句風の出発点にあたる。
あらすじ
巻頭に高浜虚子の序が置かれ、「雨音のかむさりにけり虫の宿」「狐火の減る火ばかりとなりにけり」などの句を取り上げて、作者がその場の光景を噛みしめ、感じに合う言葉を見つけるまでの心の働きを評する。言葉を見出す巧みさと感じの鋭敏さが一つになっていると述べ、たかし君の近来の句は写生の道を進んでいるとして期待を示す。巻末のたかし自身のあとがきには、俳句については何事も語り得ず、ただ作ってゆくより他に仕方がないという覚悟と、虚子に師事できる幸福への感謝が記され、昭和10年11月の日付で閉じられる。
冒頭部(原文より)
序 雨音のかむさりにけり虫の宿 作者が虫の音を静に聞いて居つた。そこへ雨が降り出して来た。その雨が庭木にあたつて、かすかな音をたてゝゐる。さういふ事実からこの句を得るまでの間の、作者の頭の働き具合を考へて見ると興味がある。働き具合と言つたところで別に想を構へるといふのではない。たゞ静にその場合の光景を噛みしめて見て、何といふ言葉で言ひ現はしたなら、その場合の感じが出るであらうと考へた末に、遂に「かむさりにけり」といふ言葉を生み出して、漸く安心した作者の心持が現はれるのである。「かむさりにけり」といふ言葉は、雨の降つて来た時の感じを巧みにうまく表はし得た言葉である。かう言はれてみると、その場合の感じが余蘊なく描れてゐるのである。言葉を見出すのが巧みだとも言へるが、その感じが鋭敏だとも言へる。両者は一にして二ならずといふべきである。
「松本たかし句集」松本たかし(青空文庫)
末尾部(原文より)
俳句に就ては、私は何事をも語り得ない。唯俳句を作つてゆかう――作るより他に仕方がない、といふ覚悟が決つただけのことである。 虚子先生に師事し得たこと、更に今後も師事し得るといふことは私の無上の幸福とするところである。この幸福を徒に使ひはたしてはならないと思ふ。 昭和十年十一月二十三日 たかし (昭和十年十二月刊)
「松本たかし句集」松本たかし(青空文庫)
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