伊良子清白の名文

伊良子清白の作品から、よく知られた一節を集めました。

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孔雀船

阿古屋の珠は年古りて其うるみいよいよ深くその色ますます美はしといへり。わがうた詞拙く節おどろおどろしく、十年經て光失せ、二十年すぎて香去り、今はたその姿大方散りぼひたり。昔上田秋成は年頃いたづきける書深き井の底に沈めてかへり見ず、われはそれだに得せず。ことし六十あまり二つの老を重ねて白髮かき垂り齒脱けおち見るかげなし。ただ若き日の思出のみぞ花やげる。あはれ、うつろなる此ふみ、いまの世に見給はん人ありやなしや。

伊良子清白が詩集『孔雀船』(1906年)を岩波文庫に収める際に添えた序。古い歌の光が失せた今、若い日の思い出だけが花やぐと、静かに綴る。

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伊良子清白