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貧乏物語(河上肇)のあらすじ・登場人物

なぜ人は貧乏するのか

河上肇 1916年(大正5年)9月 「大阪朝日新聞」

文字数
106,406字
読了目安
約3時間33分
表記
新字新仮名

この作品について

経済学者の河上肇が、1916年(大正5年)9月から12月まで「大阪朝日新聞」に連載し、翌年に単行本として刊行した経済の読み物。上編「いかに多数の人が貧乏しているか」、中編「何ゆえに多数の人が貧乏しているか」、下編「いかにして貧乏を根治しうべきか」の三編からなる。イギリスの社会調査に基づく「貧乏線」の考え方を紹介して、富める文明国に生活に必要なものさえ得られない人々が多くいることを示し、その原因と根治の方策を論じる。連載の一回ごとに日付を付した区切りのよい語り口で、統計や海外の研究とともに、孔子や孟子の言葉、石川啄木の歌などが引かれる。

あらすじ

「驚くべきは現時の文明国における多数人の貧乏である」。上編で河上は、英米独仏など国は富んでいるのに民がはなはだしく貧しいことを指摘し、貧乏人という言葉の三つの意味を区別したうえで、肉体を健康に保ち働く力を維持するのに必要なものさえ得られない人々を経済学上の貧乏人と定める。この「貧乏線」の考え方に基づくイギリスの調査を引いて、まじめに働いても貧乏線より下に沈む人々が大勢いること、その結果として体格が劣り、多くの子どもが死んでいくことを示す。中編では、その原因を探り、今日の経済組織のもとでは生産が金もうけを目的に行われるため、富者が余裕にまかせて奢侈品を求めると、生活必需品の生産が後回しにされるのだと論じる。下編では、貧乏を根絶する方策として、富者が自ら奢侈をやめること、貧富の差を正すこと、生産事業を国家が担うことの三つを挙げ、経済組織の改造の重要さを認めながらも、人の心の改造こそが根本だとして、まず富者の自覚を説く。マルクスの妻の手紙を紹介して社会の制度が人に及ぼす影響の大きさにも触れ、最後は『大学』の「身を修め家を斉う」の言葉を引いて筆をおく。付録として、著者が敬愛する英国の政治家ロイド・ジョージについての文章二編を収める。

冒頭部(原文より)

驚くべきは現時の文明国における多数人の貧乏である。一昨昨年(一九一三年)公にされたアダムス氏の『社会革命の理*』を見ると、近々のうちに社会には大革命が起こって、一九三〇年、すなわちことしから数えて十四年目の一九三〇年を待たずして、現時の社会組織は根本的に顛覆してしまうということが述べてあるが、今日の日本にいてかかる言を聞く時は、われわれはいかにも不祥不吉な言いぶんのように思う。しかし翻って欧米の社会を見ると、冷静なる学究の口からかかる過激な議論が出るのも、必ずしも無理ではないと思わるる事情がある。英米独仏その他の諸邦、国は著しく富めるも、民ははなはだしく貧し。げに驚くべきはこれら文明国における多数人の貧乏である。

「貧乏物語」河上肇(青空文庫)

末尾部(原文より)

思うにもし英国の富豪ないし資本家にして、消費者としてはた生産者としての真の責任を自覚するに至るならば、ただに国内における社会問題を平和に解決しうるのみならず、また世界の平和をも維持しうるに至るであろう。  これをもって考うるに、ひっきょう一身を修め一家を斉うるは、国を治め天下を平らかにするゆえんである。大学にいう、「古の明徳を天下に明らかにせんと欲する者は、先ず其の国を治む。其の国を治めんと欲する者は、先ず其の家を斉う。其の家を斉えんと欲する者は、まず其の身を修む。身修まって後家斉い、家斉うて後国治まり、国治まって後天下平らかなり。天子より以て庶人に至るまで、一に是れ皆身を修むるをもって本を為す。その本乱れて末治まる者は否じ矣」と。嗚呼、大学の首章、誦しきたらば語々ことごとく千金、余また何をか言わん。筆をとどめて悠然たること良久し。

「貧乏物語」河上肇(青空文庫)

名文

驚くべきは現時の文明国における多数人の貧乏である。

河上肇『貧乏物語』本文の書き出し。豊かになったはずの文明国になお貧乏が広がる事実を、「驚くべき」ことだと切り出す。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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