読書子に寄す(岩波茂雄)のあらすじ・登場人物
知識と美を万人のものに
- 文字数
- 952字
- 読了目安
- 約2分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
1927年(昭和2年)7月、岩波文庫の創刊にあたって岩波書店の創業者・岩波茂雄が記した発刊の辞。「岩波文庫発刊に際して」の副題を持ち、現在も岩波文庫の各冊の巻末に掲げられている。「真理は万人によって求められることを自ら欲し」と始まり、学芸を特権階級の独占から解放して民衆に届けるという文庫の目的を述べる。当時流行していた予約制の全集、いわゆる円本の売り方を批判し、ドイツのレクラム文庫を範として、古典的価値のある書物を分野を問わず安価で手軽な形で刊行していく方針を示す。漢文調の格調高い文語まじりの文体で、一千字ほどの短い文章ながら、出版の理念を語った文章としてよく引かれる。執筆には哲学者の三木清が深く関わったとされる。
あらすじ
真理と芸術は本来万人のものであるのに、かつて学芸は狭い場所に閉じ込められていた。知識と美を特権階級の独占から奪い返すのは民衆の切実な要求であり、岩波文庫はそれに応えて生まれたと岩波茂雄は宣言する。続いて、大量生産の予約出版が流行し、広告宣伝が過熱するなかで、全集の編集や古典の翻訳が誠実に行われているか、分売を許さず読者に数十冊を強いるやり方が学芸の解放と言えるかと疑問を投げかける。そこで岩波書店は、十数年来の計画を実行に移し、レクラム文庫を手本に、文芸・哲学・社会科学・自然科学を問わず古典的価値のある書を簡易な形で次々に刊行すると述べる。予約制をとらないので読者は欲しい本を一冊ずつ自由に選べ、携帯に便利で安価であることを第一に、内容は厳選するという。最後に、これを一時の投機ではない永遠の事業として継続すると誓い、経済的に困難な事業への理解と、読書子との共同を呼びかけて結ぶ。
冒頭部(原文より)
真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。
「読書子に寄す」岩波茂雄(青空文庫)
末尾部(原文より)
芸術を愛し知識を求むる士の自ら進んでこの挙に参加し、希望と忠言とを寄せられることは吾人の熱望するところである。その性質上経済的には最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、その達成のため世の読書子とのうるわしき共同を期待する。
「読書子に寄す」岩波茂雄(青空文庫)
名文
真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。それは生命ある不朽の書を少数者の書斎と研究室とより解放して街頭にくまなく立たしめ民衆に伍せしめるであろう。
1927年、岩波文庫の創刊に際して岩波茂雄が記した刊行の辞。知識と美を特権階級から取り戻し、古典を万人の手に届けるという志を宣言する。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。