貧しき信徒(八木重吉)のあらすじ・登場人物
雨のすることをみていたい
- 文字数
- 4,775字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
29歳で結核に倒れた八木重吉が残した遺稿を、妻・とみがまとめた第二詩集。「秋の瞳」よりもさらに切りつめられた数行の詩が並び、死を目前にした者の澄明さと、幼い子や母への尽きせぬ愛情が交錯する。「雨は土をうるおしてゆく/雨というもののそばにしゃがんで/雨のすることをみていたい」——祈りのかたちをした詩の一冊。
あらすじ
「ゆうぐれ/瞳をひらけば/ふるさとの母うえもまた/とおくみひとみをひらきたまいて」——冒頭の「母の瞳」から、この詩集は始まる。月に照らされて芋やすすきや豆腐を並べたくなる「お月見」、「花がふってくると思う/この てのひらにうけとろうとおもう」という三行の詩、つまらないから明るい陽のなかで涙を流していたという「涙」。日常のなにげない瞬間が、そのまま詩になる。だが病の影は濃い。「とうもろこしに風が鳴る/死ねよと 鳴る/死ねよとなる/死んでゆこうとおもう」(風が鳴る)。咳をする我が子に自分の顔が巨きくなって覆いかぶさろうとする「こどもが病む」。それでも詩人は、大空をびんびんと響いてゆこうと歌い、菊の芽を「うつくしくすてる」と書く。終わりに近い数篇では、雨のそばにしゃがんでそのすることを見ていたいと願い、雪の日の木の根元に小人がふざけているような気がすると書き、「神様 あなたに会いたくなった」とだけ記す。最後の一篇では、発熱の夜にキリストを念じて眠ったとき夢に現れた、自分のものだと自ずから分かる気高い顔のことが語られる。目がさめても熱は下がらなかったが、不思議に心は平らかだった——そう結ばれている。
冒頭部(原文より)
母の瞳 ゆうぐれ 瞳をひらけば ふるさとの母うえもまた とおくみひとみをひらきたまいて かわゆきものよといいたもうここちするなり お月見 月に照らされると 月のひかりに こころがうたれて 芋の洗ったのや すすきや豆腐をならべたくなる お月見だお月見だとさわぎたくなる
「貧しき信徒」八木重吉(青空文庫)
末尾部(原文より)
雨 雨は土をうるおしてゆく 雨というもののそばにしゃがんで 雨のすることをみていたい 木枯 風はひゅうひゅう吹いて来て どこかで静まってしまう 無題 雪がふっているとき 木の根元をみたら 面白い小人がふざけているような気がする 無題 神様 あなたに会いたくなった
「貧しき信徒」八木重吉(青空文庫)
名文
この明るさのなかへ ひとつの素朴な琴をおけば 秋の美くしさに耐えかね 琴はしずかに鳴りいだすだろう
四行だけの詩「素朴な琴」。秋の明るさに耐えかねて琴がひとりでに鳴るという、澄んだ信仰のような一篇。
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