遺訓(西郷隆盛)のあらすじ・登場人物
敬天愛人を説く西郷の言葉
- 文字数
- 8,755字
- 読了目安
- 約18分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
明治維新の指導者・西郷隆盛(南洲)の言葉を書き留めた『南洲翁遺訓』。戊辰戦争後、西郷の寛大な処置に感じ入った旧庄内藩の人々が鹿児島に西郷を訪ねて教えを受け、その談話を条ごとにまとめたものとされ、1890年(明治23年)に刊行された。廟堂に立つ者の心構え、人材の登用、租税や会計、兵制、外国との交際といった政治の大本から、「敬天愛人」を学問の目的とする条、「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也」と始まる条など、人の生き方を説くものまでを、簡潔な文語で記す。本編の四十一条のあとに「追加」「問答」「補遺」を添える。
あらすじ
第一条は、廟堂に立って政治を行うのは天道を行うことであり、少しも私心を挟んではならないと説く。賢人を選んで職を任せ、功のある者には官職ではなく俸禄で報いるべきだという。続く条では、政治の大体は文を興し、武を振るい、農を励ますことにあるとし、上に立つ者は身を慎み、驕りと奢りを戒めて民の手本とならなければ維新の功業は遂げられないと、戦死者を思って涙する。人材の登用、正道を踏んで策略を用いないこと、むやみに西洋をまねずまず自国の本体を据えること、文明とは道が広く行われることで宮殿や衣服の華美ではないこと、租税を軽くして民を豊かにすること、入るを量って出づるを制すること、節義廉恥を失っては国を保てないこと、正道を踏み国とともに倒れる覚悟がなければ外国との交際は全うできないことなどが、条を重ねて語られる。後半は人の修養に及び、道は天地自然のものであるから学問は「敬天愛人」を目的とし、己に克つことを終始の工夫とせよと説き、命も名も官位も金もいらない人こそ艱難をともにして国家の大業を成し得るのだと述べる。「追加」「問答」に続く「補遺」では、至誠、勇気、理と勢、機会、変事への備えなどを、中国の古人の語を引いて説く。
冒頭部(原文より)
一 廟堂に立ちて大政を爲すは天道を行ふものなれば、些とも私を挾みては濟まぬもの也。いかにも心を公平に操り、正道を蹈み、廣く賢人を選擧し、能く其職に任ふる人を擧げて政柄を執らしむるは、即ち天意也。夫れゆゑ眞に賢人と認る以上は、直に我が職を讓る程ならでは叶はぬものぞ。故に何程國家に勳勞有る共、其職に任へぬ人を官職を以て賞するは善からぬことの第一也。
「遺訓」西郷隆盛(青空文庫)
末尾部(原文より)
三 若し英雄を誤らん事を懼れ、古人の語を取り是を證す。 譎詐無クレ方。術略横出ス。智者之能也。去リテ二詭詐ヲ一而示スニレ之ニ以テシ二大義ヲ一。置イテ二術略ヲ一而臨ムニレ之ニ以テス二正兵ヲ一。此レ英雄之事。而智者之所レ不ルレ能ハレ爲ス矣。(○陳龍川、諸葛孔明論の語) 英雄の事業如レ此、豈奇妙不思議のものならんや。學んで而して至らざるべけんや。
「遺訓」西郷隆盛(青空文庫)
名文
命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。此の仕末に困る人ならでは、艱難を共にして國家の大業は成し得られぬなり。
西郷隆盛の遺訓(『南洲翁遺訓』)三〇条。命も名も官位も金も望まない人こそ、国家の大事を共にできる——と語る、西郷の人物観の核心。
己れを愛するは善からぬことの第一也。修業の出來ぬも、事の成らぬも、過を改むることの出來ぬも、功に伐り驕謾の生ずるも、皆な自ら愛するが爲なれば、決して己れを愛せぬもの也。
「己れを愛する」ことこそ失敗の根本だと戒める二六条。事業の挫折も過ちの改められないのも、すべて自分を愛するところから来ると説く。
道は天地自然の道なるゆゑ、講學の道は敬天愛人を目的とし、身を修するに克己を以て終始せよ。
二一条。学問の目的を「敬天愛人」に置き、修養は克己で貫けと教える。西郷の座右の言葉として知られる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。