単独行(加藤文太郎)のあらすじ・登場人物
冬山をひとりで歩いた記録
- 文字数
- 112,848字
- 読了目安
- 約3時間46分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 長野県
- 富山県
- 岐阜県
- 兵庫県
この作品について
神戸の造船所に勤めながら、大正末から昭和の初めにかけて北アルプスを中心に山々を歩いた加藤文太郎の遺稿集。とりわけ冬山をパーティーを組まず一人で登ったことで知られ、その山行の記録と随想を集めて、1936年(昭和11年)に刊行された。日付と時刻、天候、通過地点を簡潔に並べた山行記録に、登山を始めたころの思い出、「単独行について」と題した随想、冬山の天候・雪崩・道具についての覚書が加わる。山への熱意を飾らない言葉で書いた文章で、のちに新田次郎の小説『孤高の人』の主人公のモデルとなった人物の肉声を伝える。
あらすじ
巻頭の「槍ヶ岳/立山/穂高岳」では、一月に島々から上高地へ入り、スキーとアイゼンで槍ヶ岳の頂に立つ冬の山行が、日付と出発・到着の時刻を並べた簡潔な記録で示される。続いて、登山熱にとりつかれた経緯を語る「私の登山熱」、大正十五年の夏に初めて北アルプスを縦走した日記、地元兵庫の山々の山行、立山から白馬・白山へ、槍から穂高・乗鞍・御嶽へ、赤石山脈から白峯山脈へといった縦走コースの覚書が並ぶ。やがて冬山へ足を踏み入れた著者は、八ヶ岳、乗鞍岳、槍ヶ岳、常念岳、立山、奥穂高岳、白馬岳と、雪の山を一人で歩くようになる。厳冬の薬師岳から烏帽子岳への縦走、冬の富士山、山中で道に迷い錯覚を経験した話などが続き、「単独行について」では、一人で山へ行く者への世間の目に対して、単独行者よ強くなれと呼びかける。北穂高や前穂高の尾根の記録、厳冬の立山から針ノ木越えの記録のあと、巻末の「冬山のことなど」では、冬山の天候の読み方、雪崩の起こる条件と避け方、防水布の服や目出帽などの道具の工夫を、自らの経験に基づいて具体的に記している。
冒頭部(原文より)
A 槍ヶ岳・唐沢谷 一月二十六日 快晴 六・〇〇島々 一一・〇〇沢渡 一・三〇中ノ湯 三・一五―三・五〇大正池取入口 四・五〇上高地温泉 中ノ湯附近は発電所入口や、水路工事などの人々が始終通るので、雪も少なく楽だった。ここでスキーを履き、トンネルを出てすぐ河原に下り川床伝いに行く。いつも世話になる大正池の水路取入口で、山の様子を聞く。去年の二月、上高地におった日、遊びにきたここの人がその夏、不慮の災難で亡くなられたと知って何だか淋しくなってしまった。温泉まではここの人がよく通るのでシュプールが残っており、知らぬ間に歩いてしまう。そしてあの親切な老爺が「よくやってきた」と喜んで迎えてくれた。
「単独行」加藤文太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
道具について 上下つづいた防水布の服――冬期は大変風が強いので風通しのよい物はなにほど着ても駄目だ、やはり風を防ぐ目の込んだ防水布等で保護しなければならない。上下つづいていれば腰のところから雪が入らないので、少々転んでも心配がない。軽快にするため薄い上等の物がよい。 毛皮の目出帽――吹雪のときにこれをスッポリかぶると目を凍傷することがなくたいへん暖い。目のところはセルロイドを縫い付ける。これが曇るので少々困るが別によい方法がない。
「単独行」加藤文太郎(青空文庫)
原文を読む
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