阿仏尼の名文
阿仏尼の作品から、よく知られた一節を集めました。
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十六夜日記
むかし、かべのなかよりもとめ出でたりけむふみの名をば、今の世の人の子は、夢ばかりも身のうへの事とは知らざりけりな。
阿仏尼『十六夜日記』の書き出し。壁の中から見つかった書物の故事を引き、親の戒めを顧みない世を嘆くところから筆を起こす。
富士の山を見れば煙もたゝず。むかし父の朝臣にさそはれて、「いかになるみの浦なれば」などよみしころ、とほつあふみの国までは見しかば、「富士のけぶりの末も、あさゆふたしかに見えしものを、いつの年よりか絶えし」と問へば、さだかに答ふる人だになし。
東海道の旅で富士を仰ぐ場面。かつて父と旅した頃には見えた煙が今は絶えていると記し、歳月の移ろいを感じさせる。