牧野信一の名文

牧野信一の作品から、よく知られた一節を集めました。

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地球儀

「早く廻れ早く廻れ、スピンスピンスピン」などと口走ったりした。するといつの間にか彼の心持は「早く帰れ早く帰れ」という風になってくるのだった

「私」が書きかけた短篇の一節。アメリカから帰らない父を待つ少年が、地球儀を回すうちに願いを重ねてゆく、作品の核となる場面である。

ゼーロン

更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。

牧野信一『ゼーロン』の書き出し。自分をモデルにした胸像を持て余す「私」の珍妙な道行きが、ここから始まる。

絶え間もない突撃をゼーロンの臀部に加えながら、沼の底に似た森にさしかかった。樹々の梢が水底の藻に見え、「水面」を仰ぐと塒へ帰る烏の群が魚に見え、ゼーロンにも私にも鰓があるらしかった。

老馬ゼーロンを追い立てて森を進む終盤の一節。森が沼の底に変わってゆく幻想に、現実と空想が溶け合う牧野文学の味わいが凝縮している。

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牧野信一