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地球儀(牧野信一)のあらすじ・登場人物

早く廻れ、早く帰れ

  • 家族
  • 心理

牧野信一 1923年(大正12年)7月 「文藝春秋」

文字数
4,115字
読了目安
約8分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

1923年(大正12年)、「文藝春秋」に発表された牧野信一の初期短編。祖父の十七年忌に小田原の実家へ帰った「私」が目にしたのは、押入れの隅で母に邪魔者あつかいされている、背の高い古い地球儀の箱だった。それはかつて祖父が、アメリカへ渡ったきり帰らぬ長男——「私」の父——の居場所を家族に教えるために買ったものである。放蕩を続ける父、家を一人で背負う覚悟を決めた母、そして無能とカラ元気を自覚しながら何ひとつできない「私」。三代にわたる家の傾きを、一つの古びた地球儀に映して描く。

あらすじ

祖父の十七年の法要があるから帰れという母の手紙で、「私」は二タ月ぶりに小田原の家へ帰った。父の様子を尋ねると、母は押入れを片付けながら「だんだん悪くなるばかり」と言う。父の放蕩はやまず、「私」にはもう一文もやるなと言い置いて家を空けている。セセラ笑ってみせても、自分の無能とカラ元気が醜く感じられるだけだ。母は押入れの隅に嵩張る、三尺ほどの地球儀の箱を指して邪魔だとこぼす。それを見た「私」は、つい先ごろその地球儀を材料に小説を書きかけたことを思い出す。——祖父は毎晩のように家族を集め、膝の前に地球儀を据えた。日本は赤いからすぐ分かる。母が指で押さえるのは「ヘーヤーヘブン」、写真でしか顔を知らない父のいる町だ。「どうしても俺にはこの世が丸いなどとは思われない」と祖父は笑った。幼い「私」は誰もいないところで球を回し、「早く廻れ早く廻れ」と口走りながら、いつしかそれが「早く帰れ」に変わっていくのだった。法要の席では、父の代理として末席に座らされ、しどろもどろの挨拶をする。襖越しには、親類たちが「カゲ弁慶」「臆病者」と自分を評する声が聞こえた。翌日も母は地球儀の箱を邪魔にし、見るたびに焦れったいと顔を顰める。「私」は、今に栄一が玩具にするかもしれない、と言いかけて呑みこんだ。栄一とは、去年の春に生まれた「私」の長男である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。 「このごろはどうなの?」  私は父のことを尋ねた。 「だんだん悪くなるばかり……」  母は押入を片付けながら言った。続けて、そんな気分を振り棄てるように、 「こっちの家はほんとに狭くてこんな時にはまったく困ってしまう。第一どこに何がしまってあるんだか少しも分らない」などと呟いていた。

「地球儀」牧野信一(青空文庫)

末尾部(原文より)

「だってこんなもの、こうしておいたって何にもなりはしない、いっそ……」  母は顔を顰めて小言を言っていた。  ――今に栄一が玩具にするかもしれない――私はも少しでそう言うところだったが、突然またあの「お伽噺」を思いだすと、自分で自分を擽るような思いがして、そのまま言葉を呑みこんでしまった。  栄一というのは去年の春生れた私の長男である。

「地球儀」牧野信一(青空文庫)

名文

「早く廻れ早く廻れ、スピンスピンスピン」などと口走ったりした。するといつの間にか彼の心持は「早く帰れ早く帰れ」という風になってくるのだった

「私」が書きかけた短篇の一節。アメリカから帰らない父を待つ少年が、地球儀を回すうちに願いを重ねてゆく、作品の核となる場面である。

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