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雛(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

売り払う前に、もう一度飾りたい

  • 家族
  • 心理

芥川龍之介 1923年(大正12年)3月 「中央公論」

文字数
11,232字
読了目安
約22分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

御一新で没落した旧家が、横浜の亜米利加人へ売り渡すことになった雛人形。手放す前にもう一度だけ飾って見たいという十五の娘の願いは、父にも兄にも退けられる——芥川龍之介が、明治初年の一家の一夜を、老女の回想として語らせた短編。

あらすじ

諸大名の金御用を勤めた紀の国屋も、徳川家の瓦解でかたむいた。度重なる火事と商売の失敗のすえ、とうとう娘のお鶴の雛人形まで横浜の亜米利加人に売ることになる。売値は三十円。手つけを持ってきた骨董屋の丸佐が帰ったあと、母は縫い物をしながら涙をためており、開化を鼻にかける兄の英吉はそれを見て妙な笑い方をした——お鶴が兄をぶち、平手を返され、家じゅうが口論になる。やがて母は面疔で床につき、雛の話どころではなくなる。それでも引き渡しの前日、お鶴は「後生一生のお願い」と父にせがむが、「一度手附けをとつたとなりやあ、人様のものだ」と取り合ってもらえない。兄は帰りみち、人力車の泥除けに手をかけて妹に言う。父が見るなというのは、見ればみんなに未練が出るからだ、と。その晩、無尽燈に代わる新しいランプが土蔵を明るく照らした。夜更けにふと目を覚ましたお鶴の枕もとには、雛をひとつ残らず並べ、それを独り眺めている年老いた父の横顔があった——。夢だったのかどうか、老女は今も返答に困る、と語る。古いものが去ってゆく時代の一夜を写した一篇である。

冒頭部(原文より)

箱を出る顔忘れめや雛二対  蕪村  これは或老女の話である。  ……横浜の或亜米利加人へ雛を売る約束の出来たのは十一月頃のことでございます。紀の国屋と申したわたしの家は親代々諸大名のお金御用を勤めて居りましたし、殊に紫竹とか申した祖父は大通の一人にもなつて居りましたから、雛もわたしのではございますが、中々見事に出来て居りました。

「雛」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

 夢かと思ふと申すのは、……ああ、それはもう前に申し上げました。が、ほんたうにあの晩の雛は夢だつたのでございませうか? 一図に雛を見たがつた余り、知らず識らず造り出した幻ではなかつたのでございませうか? わたしは未にどうかすると、わたし自身にもほんたうかどうか、返答に困るのでございます。  しかしわたしはあの夜更けに、独り雛を眺めてゐる、年とつた父を見かけました。これだけは確かでございます。さうすればたとひ夢にしても、別段悔やしいとは思ひません。兎に角わたしは眼のあたりに、わたしと少しも変らない父を見たのでございますから、女々しい、……その癖おごそかな父を見たのでございますから。

「雛」芥川龍之介(青空文庫)

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