紙風船(一幕)(岸田国士)のあらすじ・登場人物
することのない日曜の午後
- 家族
- 心理
- 文字数
- 7,471字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 東京都
この作品について
晴れた日曜の午後、庭に面した座敷。することのない若い夫婦が、退屈まぎれに「もし鎌倉へ行ったら」という空想の旅を演じてみせる——岸田国士の代表作にして、日本近代戯曲の名品。事件は何ひとつ起こらないのに、会話の呼吸だけで夫婦の距離と孤独が浮かび上がる。
あらすじ
晴れた日曜の午後、庭に面した座敷。夫は縁側の籐椅子で新聞の文化村の記事を読み、妻は編物をしている。「おい、散歩でもして見るか」「いゝから、川上さんとこへ行つてらつしやいよ」——かみ合わない会話が、いくつも空回りする。行きたくない、お前のそばにいたいんだ、と言う夫に、妻は「わかつてますよ、憚りさま」と返す。何をするでもない時間が過ぎ、二人の間には、退屈というより、たがいへの言いようのない苛立ちと物足りなさが澱んでゆく。やがて妻がふと切り出す。もし今日、鎌倉へ行ったとしたら——。そこから二人は、行かなかった旅を、まるでそうしてきたかのように語りはじめる。汽車に乗り、海を見て、宿に入り、そこで出会う人々。想像のなかの夫婦は、現実の二人よりずっと生き生きと会話し、たがいに惹かれ、嫉妬までしてみせる。空想が興に乗るほどに、目の前の日常の味気なさが際立ってゆく。やがて隣家から飛んできた紙風船が庭に落ち、二人は現実に引き戻される。妻はそれを拾い、ふくらませて、ぽんと突く。「さういふこともあつた」——夫の短いひと言で、幕は下りる。
登場人物
- 夫 日曜の午後をもてあましている
- 妻 空想の旅を持ちかける
冒頭部(原文より)
人物 夫 妻 時 晴れた日曜の午後 所 庭に面した座敷 夫 (縁側の籐椅子に倚り、新聞を読んでゐる) 妻 (縁側近く座蒲団を敷き、編物をしてゐる)なに、それは。
「紙風船(一幕)」岸田国士(青空文庫)
末尾部(原文より)
妻 ……つた……。 夫 さういふこともあつた。
「紙風船(一幕)」岸田国士(青空文庫)
名文
よし、それはわかつた。だが、おれたちは、日曜にどつかへ行く為めに、夫婦になつたわけぢやあるまい。うちにゐたつて、もう少し陽気な生活ができる筈だ。
岸田國士『紙風船』で、退屈な日曜を持て余す夫の言葉。結婚一年目の夫婦のすれ違いが、ありふれた口論のなかに浮かび上がる。
話は「する」ものよ。「ある」もんぢやないわ。
「どんな話がある」と言う夫に、妻が返す一言。何も起こらない会話劇のなかで、夫婦の関係の要点を鋭く突く台詞である。
原文を読む
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