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紙風船(一幕)(岸田国士)のあらすじ・登場人物

することのない日曜の午後

  • 家族
  • 心理

岸田国士 1925年(大正14年)5月 「文芸春秋」

文字数
7,471字
読了目安
約15分
表記
新字旧仮名
舞台
  • 東京都

この作品について

晴れた日曜の午後、庭に面した座敷。することのない若い夫婦が、退屈まぎれに「もし鎌倉へ行ったら」という空想の旅を演じてみせる——岸田国士の代表作にして、日本近代戯曲の名品。事件は何ひとつ起こらないのに、会話の呼吸だけで夫婦の距離と孤独が浮かび上がる。

あらすじ

晴れた日曜の午後、庭に面した座敷。夫は縁側の籐椅子で新聞の文化村の記事を読み、妻は編物をしている。「おい、散歩でもして見るか」「いゝから、川上さんとこへ行つてらつしやいよ」——かみ合わない会話が、いくつも空回りする。行きたくない、お前のそばにいたいんだ、と言う夫に、妻は「わかつてますよ、憚りさま」と返す。何をするでもない時間が過ぎ、二人の間には、退屈というより、たがいへの言いようのない苛立ちと物足りなさが澱んでゆく。やがて妻がふと切り出す。もし今日、鎌倉へ行ったとしたら——。そこから二人は、行かなかった旅を、まるでそうしてきたかのように語りはじめる。汽車に乗り、海を見て、宿に入り、そこで出会う人々。想像のなかの夫婦は、現実の二人よりずっと生き生きと会話し、たがいに惹かれ、嫉妬までしてみせる。空想が興に乗るほどに、目の前の日常の味気なさが際立ってゆく。やがて隣家から飛んできた紙風船が庭に落ち、二人は現実に引き戻される。妻はそれを拾い、ふくらませて、ぽんと突く。「さういふこともあつた」——夫の短いひと言で、幕は下りる。

登場人物

冒頭部(原文より)

人物 夫 妻 時  晴れた日曜の午後 所  庭に面した座敷 夫  (縁側の籐椅子に倚り、新聞を読んでゐる) 妻  (縁側近く座蒲団を敷き、編物をしてゐる)なに、それは。

「紙風船(一幕)」岸田国士(青空文庫)

末尾部(原文より)

妻  ……つた……。 夫  さういふこともあつた。

「紙風船(一幕)」岸田国士(青空文庫)

名文

よし、それはわかつた。だが、おれたちは、日曜にどつかへ行く為めに、夫婦になつたわけぢやあるまい。うちにゐたつて、もう少し陽気な生活ができる筈だ。

岸田國士『紙風船』で、退屈な日曜を持て余す夫の言葉。結婚一年目の夫婦のすれ違いが、ありふれた口論のなかに浮かび上がる。

話は「する」ものよ。「ある」もんぢやないわ。

「どんな話がある」と言う夫に、妻が返す一言。何も起こらない会話劇のなかで、夫婦の関係の要点を鋭く突く台詞である。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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