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牛山ホテル(岸田国士)のあらすじ・登場人物

南の港に沈む、行き場のない人々

  • 心理

岸田国士 1929年(昭和4年)1月 「中央公論」

文字数
32,344字
読了目安
約1時間5分
表記
新字旧仮名

この作品について

1929年(昭和4年)「中央公論」に発表された五場の戯曲。仏領インドシナの港町にある日本人経営の小さなホテルを舞台に、そこに滞留する商社員や妾や写真師たちの、どこにも行き場のない生活を描く。事件らしい事件は起こらず、人々のとりとめのない会話と沈黙のうちに、南方に流れ着いた日本人の倦怠と孤独が浮かび上がる。「紙風船」と並ぶ岸田国士の代表作であり、日本の近代劇に会話劇の水準をもたらした作品として名高い。

あらすじ

仏領印度支那のある港町。九月の末、雨期に入ろうとする前のことである。フランス人の住宅地と現地の部落とに接した一画に、日本人が経営する牛山ホテルが建っている。帳場を兼ねた女将の居間には畳が敷かれ、大きな窓からは波戸場の一部と水平線が見える。ここに集まるのは、S商会出張所の旧主任・真壁とその妾のさと、新しく赴任した主任の三谷とその夫人、商会の社員たち、洋行の主人、写真師、剣道教師、そしてフランス人の妾になっている女——いずれも故国から遠く隔たり、帰るあてもないまま日を送っている者ばかりである。人の噂、金の話、色恋のもつれ、内地の消息。会話はどこまでも進まず、決定的なことは何も起こらない。それでも人の出入りにつれて関係は少しずつ組み替えられ、やがてさとがホテルを去っていく。彼女を乗せた車が行ってしまったあと、パジャマ姿の真壁が階段の途中に現れ、じっと下を見下ろす。それは出発を見とどけるだけのことで、彼は静かに踵を返して自分の部屋へ戻っていく。

登場人物

冒頭部(原文より)

牛山よね  ホテルの女将 同 とみ  よねの養女 藤木さと  真壁の妾 石倉やす  仏蘭西人の妾 真壁    S商会出張所旧主任 三谷    S商会出張所新主任 三谷夫人 仏領印度支那のある港 九月の末――雨期に入らうとする前 港に近く、仏国人の住宅地と、所謂「アナミツト」の部落とに接する一区劃、その中心にある日本人経営のホテル。

「牛山ホテル」岸田国士(青空文庫)

末尾部(原文より)

やがて、ピジヤマを著た真壁の姿が、階段の途中に現はれる。ぢつと下を見下してゐる。が、それは、さとがいよいよ出発したといふことを見とどけるよりほか何の目的もないらしい。静かに踵を回らして自分の部屋に帰つて行く。 ――幕――

「牛山ホテル」岸田国士(青空文庫)

名文

君達御夫婦を除いて、どれもこれも、内地にゐさうな人間は一人だつてゐやしない。みんな少しづつ日本人でなくなつてゐるよ。

仏領インドシナの港町のホテルで、「丸で日本にゐるやうですね」と言う新任の三谷に、商社の旧主任・真壁が返す言葉。南方に流れ着いた日本人たちの姿を言い当てている。

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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