蟹工船(小林多喜二)のあらすじ・登場人物

酷使される労働者たちの蜂起

作者
小林多喜二
発表
1929年(昭和4年)5月
初出
戦旗
種別
小説
ジャンル
  • 社会
  • 心理
文字数
61,705字
読了目安
約2時間3分
表記
新字新仮名

この作品について

小林多喜二が1929年(昭和4年)、雑誌「戦旗」に発表した中編小説。カムチャツカ沖で蟹を獲り缶詰に加工する蟹工船「博光丸」を舞台に、監督の過酷な暴力支配のもとで死者を出しながら酷使される労働者たちが、次第に団結し立ち上がってゆく姿を群像劇として描く。個人の主人公を置かず「わたしたち」として労働者を描く手法や、資本と国家権力の癒着への鋭い批判により、日本プロレタリア文学を代表する古典として今なお読み継がれている。

あらすじ

蟹工船「博光丸」は、漁夫・雑夫数百名を乗せてカムチャツカ沖の漁場へと向かう。船内では浅川監督による凄惨な暴力支配のもと、劣悪な環境で長時間労働が強いられ、赤痢が蔓延しても病人は満足な手当も受けられずに死んでいく。逃げ場のない絶望的な状況の中、漁夫たちはロシア人との接触などを通じて次第に自分たちの置かれた立場を自覚し始める。ある時、あまりの惨状に耐えかねた労働者たちは初めてのストライキを決行するが、監督が呼び寄せた帝国海軍の駆逐艦によって鎮圧され、首謀者たちは引き渡されてしまう。国家権力が資本の側に立つ現実を思い知らされた労働者たちであったが、それでもなお屈することなく、力を合わせることの大切さを胸に、再び二度目の「サボ」(サボタージュ)に立ち上がる。今度こそ監督を出し抜くことに成功し、漁期を終えて帰港した船からは各地へ、新たな闘いの経験を担った者たちが散っていくのだった。

登場人物

人物相関図

棍棒とピストルで殴り、働かせる糞場の紙位えの価値もねえと罵る少年たちを追い立てさせる先に皮をつけた竹で殴り立てる漁獲高の責任を負わせる三分の一だけ漁夫の味方をするサロンの話を下へ流す同じ糞壺に押し込められた者音頭を取り監督を殴り倒す連絡の仕組みを紙に書いて考案小刻みに殺されていると気づかせる最初に「サボる」と言い出すその死が最初の共同行動を生むせんちょう船長名目上の最高責任者。監督の前では無力あさかわかんとく浅川監督会社の代理人。棍棒とピストルを手放さないざつふちょう雑夫長少年たちを直接に追い立てる男きゅうじ給仕サロンで働く少年。上と下を繋ぐ細い通路かわさきぶねのせんどう川崎船の船頭漁獲高の責任を負わされる中間層どもりのぎょふ吃りの漁夫名を持たぬ漁夫。いつも皆の背を押すぎょふたち漁夫たち博光丸に乗り組む二百人近い労働者ざつふたち雑夫たち船底の棚に押し込まれた十四、五歳の少年たちがくせいあがり学生上り周旋屋に騙されて乗せられた東京の学生しばうらのぎょふ芝浦の漁夫東京の工場にいた男。ストライキを知るたんやまのぎょふ炭山の漁夫夕張炭坑で七年働きガス爆発を生き延びたやまだ山田脚気で死んだ二十七歳の漁夫
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 出航――「おい地獄さ行ぐんだで!」
  5. 五 秩父丸のSOSと、消えた雑夫
  6. 六 突風と、ロシア人の言葉
  7. 七 賞品と「焼き」――小刻みに殺される
  8. 八 水葬の夜と、最初の「サボ」
  9. 九 ストライキ
  10. 十 駆逐艦、そして「もう一度!」
  11. 十一 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

「おい地獄さ行ぐんだで!」 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。――漁夫は指元まで吸いつくした煙草を唾と一緒に捨てた。

『蟹工船』小林多喜二(青空文庫)

末尾部(原文より)

「ん、もう一回だ!」 そして、彼等は、立ち上った。――もう一度! 附記 この後のことについて、二、三附け加えて置こう。 イ、二度目の、完全な「サボ」は、マンマと成功したということ。「まさか」と思っていた、面喰った監督は、夢中になって無電室にかけ込んだが、ドアーの前で立ち往生してしまったこと、どうしていいか分らなくなって。 ロ、漁期が終って、函館へ帰港したとき、「サボ」をやったりストライキをやった船は、博光丸だけではなかったこと。二、三の船から「赤化宣伝」のパンフレットが出たこと。 ハ、それから監督や雑夫長等が、漁期中にストライキの如き不祥事を惹起させ、製品高に多大の影響を与えたという理由のもとに、会社があの忠実な犬を「無慈悲」に涙銭一文くれず、首を切ってしまったということ。 ニ、そして、「組織」「闘争」――この初めて知った偉大な経験を担って、漁夫、年若い雑夫等が、警察の門から色々な労働の層へ、それぞれ入り込んで行ったということ。 ――この一篇は、「殖民地に於ける資本主義侵入史」の一頁である。 (一九二九・三・三〇)

『蟹工船』小林多喜二(青空文庫)

名文

「おい地獄さ行ぐんだで!」

訛りのまま投げ出される冒頭の一声。これから乗り込む蟹工船を「地獄」と言い切ることで、過酷な労働の物語が最初の一行から立ち上がる。

そして、彼等は、立ち上った。――もう一度!

破れた最初の蜂起のあと、二度目のサボタージュへ向かう結び。読点で刻む短い一行が、再起の意志を突き出す。

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