痴人の愛(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物
ナオミに隷属していく男
- 作者
- 谷崎潤一郎
- 発表
- 1924年(大正13年)3月
- 初出
- 大阪朝日新聞
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 恋愛
- 心理
- 舞台
- 東京都
- 文字数
- 179,399字
- 読了目安
- 約5時間59分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
谷崎潤一郎の代表作にして、日本近代文学における「悪女もの」の原型。1924年(大正13年)に「大阪朝日新聞」で連載を開始し、中断ののち雑誌「女性」に舞台を移して1925年(大正14年)まで書き継がれた。真面目な技師の「私」が、カフェの少女ナオミを西洋風の理想の女性に育て上げようとしながら、逆に奔放な彼女に翻弄され、隷属していく過程を告白体で赤裸々に綴る。関東大震災前後のモダンな世相を背景に、男の女性崇拝と自己破滅への陶酔を描き、「ナオミズム」なる流行語まで生んだ。谷崎の耽美主義文学を代表する長編である。
あらすじ
真面目実直な電気技師の河合譲治は、浅草のカフェで見習い女給として働く十五歳の少女ナオミに惹かれ、彼女を引き取って一緒に暮らし始める。西洋人めいた顔立ちのナオミを、自分好みの「ハイカラで上品な理想の女」に育て上げようと、譲治は英語や音楽を習わせ、贅沢な衣装を与え、まるで人形を慈しむように世話を焼く。だが成長するにつれ、ナオミは奔放で我儘な本性をあらわにし、譲治の稼ぎを湯水のように使い、若い男たちと平気で遊びまわるようになる。彼女の不貞を知って一度は家から追い出すものの、譲治はナオミの肉体と魅力への執着を断ち切ることができない。詫びを入れ、あらゆる要求を呑んで彼女を呼び戻した譲治は、以後、対等な夫婦どころか、ナオミにかしずく下僕のような存在へと堕ちていく。理想の女を「造る」つもりだった男が、いつしか女に飼い馴らされ、その隷属をむしろ悦びとするに至る——愚かしくも抗いがたい愛の顛末を、譲治は恥じらいもなく書き記すのだった。
登場人物
- 河合譲治 真面目な電気技師。少女ナオミを理想の女に育てようとして、逆に翻弄され隷属していく本作の主人公・語り手
- ナオミ 譲治に見出されたカフェの少女。奔放で我儘に成長し、譲治を意のままに操る
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 出会い──浅草のカフエエと大森の「お伽噺の家」
- 五 教育の挫折──「精神」を捨てて「肉体」へ
- 六 ダンス──浜田と熊谷、そして精養軒の噂
- 七 鎌倉の夏──裏切りの発覚
- 八 追放と失踪──午後零時三十六分
- 九 帰還と屈服──「あたしの恐ろしいことが分った?」
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。それは私自身に取って忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いない。
『痴人の愛』谷崎潤一郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
これで私たち夫婦の記録は終りとします。これを読んで、馬鹿々々しいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、いい見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。ナオミは今年二十三で私は三十六になります。
『痴人の愛』谷崎潤一郎(青空文庫)
名文
私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。
手記の体裁で始まる告白の書き出し。少女ナオミを理想の女に育てようとした男が、やがて彼女に隷従していく顛末を予告する。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。