門(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

罪を負う夫婦の静かな日々

作者
夏目漱石
発表
1910年(明治43年)3月
初出
朝日新聞
種別
小説
ジャンル
  • 恋愛
  • 心理
舞台
  • 東京都
  • 神奈川県
文字数
139,809字
読了目安
約4時間40分
表記
新字新仮名

この作品について

夏目漱石の前期三部作(「三四郎」「それから」「門」)の第三作となる長編小説。1910年(明治43年)3月から6月にかけて朝日新聞に連載された。親友を裏切って結ばれた過去を持つ夫婦が、世間から身をひそめるように送るひっそりとした日常と、その罪の意識から救いを求めて禅寺の門を叩きながらも門前で立ち尽くす夫の姿を描く。三部作の掉尾を飾るにふさわしい、内省的で静謐な筆致の作品である。

あらすじ

崖下の借家にひっそりと暮らす宗助と御米の夫婦には、他人には明かせない過去があった。御米はもともと宗助の親友・安井の妻同然の女性であり、二人が結ばれたことで宗助は学業を捨てて世間から身を引く羽目になり、安井とも絶縁したまま長い年月が過ぎていた。二人の間に子は育たず、宗助は薄給の官吏として地味な暮らしを送っている。ある日、家主の坂井の家に、満州から帰国した安井が客として出入りしていることを知り、宗助は動揺する。安井と鉢合わせすることを恐れた宗助は、心の安らぎを求めて鎌倉の禅寺に参禅するが、悟りを得られぬまま十日ほどで山を下りることになる。結局、安井とは顔を合わせぬまま満州へ発ったと知らされ、宗助は胸をなでおろす。長い冬が終わり、縁側に春の日差しが差し込むころ、宗助と御米はようやく巡ってきた春を喜び合うが、宗助の口からは「うん、しかしまたじき冬になるよ」という言葉がこぼれるのだった。

登場人物

人物相関図

世間から逐われて六年連れ添う京都の学友。名だけで脅かす「僕の妹だ」と紹介した悪気なく安井の名を口にする弟。学資を絶たれ転がり込む学資の打ち切りを申し渡す従弟。不足を分担参禅を導くが門は開かない佐伯の叔母宗助の叔母。小六を引き取っていたやすい安井宗助の京都時代の学友。作中に姿を現さないさかい坂井崖の上に住む家主。界隈で一番古い門閥やすのすけ安之助佐伯の息子。宗助と小六の従弟のなかころく野中小六宗助の弟。高等学校の学生のなかそうすけ野中宗助崖下の借家に住む薄給の官吏およね御米宗助の妻。三度の懐妊をいずれも失うぎどう宜道鎌倉の禅寺の若い僧。もとは彫刻家
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 崖下の家──秋の日曜と弟の学資
  5. 五 抱一の屏風と崖の上の家主
  6. 六 冬──御米の発作と三度の喪
  7. 七 過去──京都で起こったこと
  8. 八 偶然──坂井の客
  9. 九 山門──参禅の十日
  10. 一〇 結末──また冬になる
  11. 一一 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

宗助は先刻から縁側へ坐蒲団を持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐をかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。秋日和と名のつくほどの上天気なので、往来を行く人の下駄の響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。

『門』夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

宗助は家へ帰って御米にこの鶯の問答を繰り返して聞かせた。御米は障子の硝子に映る麗かな日影をすかして見て、「本当にありがたいわね。ようやくの事春になって」と云って、晴れ晴れしい眉を張った。宗助は縁に出て長く延びた爪を剪りながら、「うん、しかしまたじき冬になるよ」と答えて、下を向いたまま鋏を動かしていた。

『門』夏目漱石(青空文庫)

名文

宗助は先刻から縁側へ坐蒲団を持ち出して、日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐をかいて見たが、やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。

秋日和の縁側から静かに始まる書き出し。過去を背負って世間の隅で暮らす夫婦の日常が、この平穏な一齣に凝縮されている。

彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。

参禅を諦めて山を下りる宗助を評した一節。救いにも達せず日常にも戻れない位置を、題名の「門」に重ねて言い当てる。

原文を読む

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