爛(徳田秋声)のあらすじ・登場人物

囲い者から正妻の座を狙う女

作者
徳田秋声
発表
1913年(大正2年)3月
初出
国民新聞
種別
小説
ジャンル
  • 心理
  • 恋愛
舞台
  • 東京都
文字数
74,715字
読了目安
約2時間29分
表記
新字新仮名

この作品について

徳田秋声が1913年(大正2年)、「国民新聞」に連載した長編小説。原題「たゞれ」。自然主義文学を代表する秋声が、お増という一人の女の生き方を、感傷を排した即物的な筆致で描く。かつて水商売に身を置いたお増は、妻子ある男・浅井の囲い者となり、やがてその正妻の座をも脅かしていく。嫉妬と倦怠、打算と情欲がからみ合う男女の日常を、美化も断罪もせず淡々と写しとった、秋声円熟期の代表作の一つである。

あらすじ

水商売から足を洗ったお増は、妻子ある男・浅井にひそかに囲われ、下谷から麹町へと移り住む。浅井の妻は喘息を病んでおり、お増は「あの女を離縁して自分を正妻に」と、それとなく浅井をせき立てていく。日中は近所のお千代婆さんの家に入り浸って花札に興じ、夜は独りの臥床で、かつての勤めの日々や馴染みの男たちの面影を思い返す――満たされぬ思いと苛立ち、女としての傷を抱えながら、お増はしたたかに、また捨て鉢に日々を送る。正妻への嫉妬、浅井の心をつなぎとめようとする駆け引き、周囲の女たちとの張り合い。そうした情痴と倦怠の積み重ねの果てに、お増はついに浅井の妻の座におさまる。ある夜、夫婦となった二人が茶の間で向き合いながら、お増は晴れ晴れとした顔で、これからのことを語り合うのだった。一人の女の欲と情の移ろいを、秋声が美化も裁きもせず、ありのままに写しとった自然主義の代表作である。

登場人物

人物相関図

正妻。書生時代を支えた女囲い者から妻の座へ嫁ぐ間際に関係を持つ追い落として妻の座を得る家から出す離縁交渉を一手に引き受ける金と引き換えに妹を引き取るお柳からお増へ渡された子唯一本音を話せる古い友達縁談の相手。熱烈な手紙を書くお今を出せと助言するこばやし小林浅井の碁敵の弁護士。剽軽で酒好きあさい浅井建築請負と土地売買の仲介を営む会社員根岸の隠居元羅紗問屋の老人。妾のお芳と暮らすおりゅうお柳浅井の正妻。喘息と癇癪持ちおますお増港町の遊郭に長く勤め、身請けされたばかりの女おいまお今お増の遠い縁続きの娘。住み込みの行儀見習いむろしずお室鎮雄二十四歳。財産家の跡取り。偏執的で神経質お柳の兄田舎の収税吏。四十七、八しずこ静子浅井が引き取った四歳の子。実子ではないおゆきお雪お増の古い友達。落ち目の元俳優の女房
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 囲い者の日々──下谷から麹町へ
  5. 五 細君の襲来──追われて赤坂へ
  6. 六 お柳の排除──「今度はあなたの番ですよ」
  7. 七 妻の座──静子と、癒えぬ体
  8. 八 お柳の死と、室という青年
  9. 九 お今という影──指環と、追い出し
  10. 十 二重の裏切り
  11. 十一 結末──婚礼の夜の「お杯」
  12. 十二 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

 最初におかれた下谷の家から、お増が麹町の方へ移って来たのはその年の秋のころであった。  自由な体になってから、初めて落ち着いた下谷の家では、お増は春の末から暑い夏の三月を過した。

『爛』徳田秋声(青空文庫)

末尾部(原文より)

 帰ったのは大分おそかった。夫婦は、静子などの寝静まった茶の間で、そのままの姿で、茶を飲みながら、いつまでも向き合っていた。 「私たちと、あの人を頼んで、一度お杯をしてみたいじゃないの。」  お増は晴れ晴れした顔をして、奥へ着替えにたって行った。

『爛』徳田秋声(青空文庫)

原文を読む

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