婦系図(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
「俺を棄てるか、婦を棄てるか」
- 作者
- 泉鏡花
- 発表
- 1907年(明治40年)1月
- 初出
- やまと新聞
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 恋愛
- 心理
- 舞台
- 東京都
- 静岡県
- 文字数
- 172,723字
- 読了目安
- 約5時間45分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
泉鏡花の代表作の一つで、1907年(明治40年)1月から4月にかけて「やまと新聞」に連載され、翌年、前編・後編として春陽堂より刊行された長編小説。掏摸から学者に拾い上げられた男と芸者あがりの妻が、恩師の一言で引き裂かれる前編と、家柄と系図を誇る静岡の名家にその男が復讐を仕掛ける後編からなる。新派の代表的演目「湯島の白梅」で知られる「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉だ」の台詞は劇化に際して加えられたもので、原作の小説には湯島の場面もこの台詞も現れない。
あらすじ
元は掏摸「隼の力」だったが、ドイツ語学者・酒井俊蔵に拾われて更生し、今は学者として立つ早瀬主税は、柳橋の芸者だったお蔦と人目を忍んで所帯を持っていた。しかしそれを師に知られ、「俺を棄てるか、婦を棄てるか」と迫られた主税は、恩義に背けずお蔦と別れる。折しも掏摸の一件から過去まで暴かれた彼は東京を追われ、静岡へ移って、酒井の娘・お妙に縁談を申し込みながらその身分と系図を検べさせた名家・河野家に近づいていく。やがて主税は、総領娘の出生の秘密をはじめとする数々の醜聞を突きつけ、一門の統領・英臣を追い詰めた。その頃、病んだお蔦は、入院中の主税に会えぬまま東京で息を引き取る。ほとんど皆既の日蝕となった日、久能山の頂で対決した英臣は短銃で妻を撃ち、自らの頭を撃ち抜き、二人の娘も崖に身を投げた。その夜、主税は形見の黒髪を抱いて毒を仰ぐ。遺された書状は、彼が突きつけた醜聞のほとんどが、家柄を誇る者たちを撃つために仕組まれた狂言だったことを明かしていた。
登場人物
- 早瀬主税(はやせ ちから) 元は掏摸「隼の力」。十二の年に酒井俊蔵に拾われ、ドイツ語学者として更生した本作の主人公
- お蔦 柳橋の芸者「蔦吉」。自ら身請けして主税と所帯を持つが、酒井の命で身を退き、二度と芸者には戻らない
- 酒井俊蔵 主税の恩師である大学教授。二人を引き離す当人でありながら、お蔦の臨終には自ら枕元に付く
- お妙 酒井俊蔵の娘。主税と同じ家で育った。河野家の跡取り英吉との縁談が物語を動かす
- 河野英臣 静岡の名家・河野家の統領。もと軍医監。娘たちを学士に嫁がせ、嫁には身分と系図を検べさせる
- 河野道子 河野家の総領娘で病院長の内室。出生の秘密を主税に告げられる
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 飯田町の家──酸漿と、隠された妻
- 五 柏家の一夜──俺を棄てるか、婦を棄てるか
- 六 掏摸の名──新聞と、餞別と、夜逃げ
- 七 静岡へ──貴婦人と、馬丁貞造
- 八 道子──毒薬と、蛍の夜
- 九 日蝕──久能山の銃声
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
素顔に口紅で美いから、その色に紛うけれども、可愛い音は、唇が鳴るのではない。お蔦は、皓歯に酸漿を含んでいる。……
『婦系図』泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
英吉君、能うべくは、我意を体して、より美く、より清き、第二の家庭を建設せよ。人生意気を感ぜずや――云々の意を認めてあった。門族の栄華の雲に蔽われて、自家の存在と、学者の独立とを忘れていた英吉は、日蝕の日の、蝕の晴るると共に、嗟嘆して主税に聞くべく、その頭脳は明に、その眼は輝いたのである。
『婦系図』泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。
同じ作家の作品
- 高野聖 1900年(明治33年)2月