雁(森鴎外)のあらすじ・登場人物
無縁坂ですれ違う妾と医学生
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 73,892字
- 読了目安
- 約2時間28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1911〜1913年に「スバル」で連載され、末尾の三章を加えて1915年に単行本となった森鴎外の小説。明治13年の東京を舞台に、語り手の「僕」が、隣室に住んでいた医学生・岡田にまつわる出来事を回想する。規則正しい暮らしを送り、周囲から信頼される岡田は、散歩道の無縁坂で一人の女性と顔を合わせるようになる。女性は、父の暮らしを助けるために末造の妾となったお玉。窓の内と外で交わされるわずかな視線が、二人の日常に新しい意味を帯びてゆく。古本屋でのやり取りや下宿の習慣、坂道と不忍池をめぐる道筋までが詳しく記され、人物の感情を明治東京の生活の中に置いている。恋への憧れだけでなく、金銭や生活の条件が人の行動をどう支えるかにも目を向ける作品。後年から語る「僕」の声をたどりながら、街の細部と人の心の動きを読む面白さがある。
あらすじ
明治13年、東京大学の鉄門前の下宿・上条に住む「僕」の隣室には、学生たちに好かれる美男の医学生・岡田がいた。岡田は散歩の途中、無縁坂の妾宅の窓に見える女・お玉と顔を合わせるうち、会釈を交わす仲になる。お玉は、貧しい飴細工売りの父を楽にしたい一心で、正直な商人と信じた末造の妾になったが、末造の正体が高利貸と知って絶望し、窓の外を通る学生・岡田をひそかに心の支えとするようになっていた。末造の留守の夜、お玉は思い切って岡田に声をかけようと決心する。だがその日、上条の夕食に岡田の嫌いな青魚の煮肴が出たために、僕は岡田を散歩に誘い出してしまう。不忍池のほとりで、岡田は友人に促されて投げた石で、思いがけず一羽の雁を殺す。連れがいたため、お玉が声をかける機会は永遠に失われた。岡田は翌日、洋行の途につき、お玉とは二度と相見ることがなかったのである。
登場人物
- お玉 父を楽にするため高利貸の妾となった娘。窓越しに見る岡田に心を寄せる
- 岡田 無縁坂を散歩で通う美男の医学生。雁を殺した夜に洋行が決まる
- 末造 お玉を囲う高利貸。もとは大学の小使上がり
- 僕 岡田の隣室に住む学生。物語の語り手
- お玉の父 飴細工売りの老人。娘思い
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 導入──無縁坂の窓の女
- 五 飴細工屋の娘──お玉が妾になるまで
- 六 高利貸の妾──肴屋の一言
- 七 池の端の家庭──蝙蝠傘が暴いたもの
- 八 蛇退治──籠の鳥と救い手
- 九 千載一遇の日──青魚の未醤煮
- 十 結末──不忍池の雁
- 十一 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
古い話である。僕は偶然それが明治十三年の出来事だと云うことを記憶している。どうして年をはっきり覚えているかと云うと、その頃僕は東京大学の鉄門の真向いにあった、上条と云う下宿屋に、この話の主人公と壁一つ隔てた隣同士になって住んでいたからである。
「雁」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
一本の釘から大事件が生ずるように、青魚の煮肴が上条の夕食の饌に上ったために、岡田とお玉とは永遠に相見ることを得ずにしまった。そればかりでは無い。しかしそれより以上の事は雁と云う物語の範囲外にある。 僕は今この物語を書いてしまって、指を折って数えて見ると、もうその時から三十五年を経過している。
「雁」森鴎外(青空文庫)
名文
古い話である。僕は偶然それが明治十三年の出来事だと云うことを記憶している。
遠い記憶をたぐり寄せるように語り起こす書き出し。高利貸しの妾お玉と学生岡田の、すれ違ったまま終わる恋が語られる。
「不しあわせな雁もあるものだ」
岡田の投げた石が不忍池の雁に当たってしまったあとの独り言。この小さな偶然が、岡田を待っていたお玉との運命をすれ違わせることになる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。