蒲団(田山花袋)のあらすじ・登場人物
女弟子への恋を暴いた告白
- 作者
- 田山花袋
- 発表
- 1907年(明治40年)9月
- 初出
- 新小説
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 恋愛
- 心理
- 舞台
- 東京都
- 文字数
- 44,884字
- 読了目安
- 約1時間30分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
田山花袋が1907年(明治40年)に「新小説」へ発表した中編小説。妻子ある中年作家が、家に住み込んだ若く美しい女弟子へ抱く恋慕と嫉妬、そして性の欲望をあからさまに告白する。作者自身の実生活を下敷きに、主人公の内面を赤裸々にさらけ出したその手法は文壇に大きな衝撃を与え、日本の自然主義文学、そして「私小説」の源流をなす記念碑的作品として文学史に刻まれている。
あらすじ
小説家・竹中時雄は、妻と三人の子を持つ三十六歳の中年である。文学に憧れて弟子入りしてきた若く美しい女学生・横山芳子を自宅に住まわせ、師として指導するうちに、いつしか抑えがたい恋情を抱くようになる。師であり妻子ある身であるという立場と、募る一方の欲望との間で、時雄はひそかに煩悶を重ねていく。やがて芳子に同志社の学生・田中秀夫という恋人がいることが明るみに出ると、時雄の胸には嫉妬の炎が燃え上がる。二人の交際が肉体の関係にまで及んでいるのではないかと疑い、監督者として振る舞いながらも、時雄の内心は嫉妬と性欲と自己嫌悪とに引き裂かれる。ついに彼は芳子の父を呼び寄せ、彼女を郷里へ帰させることを決める。芳子が去った後、時雄は彼女が使っていた蒲団を押入れから引き出し、その夜着の襟に顔を埋めて、なつかしい女の匂いを嗅ぎながら、性欲と悲哀と絶望のなかに泣くのであった。作者自身の体験を赤裸々に告白したこの結末は、近代日本文学に「私小説」という新たな地平を切り開いた。
登場人物
- 竹中時雄 主人公。妻と三人の子を持つ三十六歳の中年小説家。若い女弟子への恋慕と嫉妬、性の欲望に苦しむ
- 横山芳子 時雄のもとに弟子入りした若く美しい女学生。文学を志す「新しい女」
- 田中秀夫 芳子の恋人である同志社の学生。二人の関係が時雄の煩悶をかき立てる
- 時雄の妻 家庭を守る貞淑な妻。夫の内心の動揺を知らずにいる
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 三年前──孤独な中年と、一通の手紙
- 五 二度の機会、そして嵯峨の二日
- 六 監督者──八幡の常夜燈と、二階の同居
- 七 恋人の上京と「温情なる保護者」
- 八 利根川の一通
- 九 三年待とう、そして「焼いて了いました」
- 十 「私は堕落女学生です」
- 十一 結末──新橋の別れと、押入の蒲団
- 十二 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
小石川の切支丹坂から極楽水に出る道のだらだら坂を下りようとして渠は考えた。「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しくなる。けれど……けれど……本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情としてのみで、恋ではなかったろうか」
『蒲団』田山花袋(青空文庫)
末尾部(原文より)
時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。 性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。 薄暗い一室、戸外には風が吹暴れていた。
『蒲団』田山花袋(青空文庫)
名文
性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
去った女弟子の蒲団に顔を埋めて泣く結末。作者自身を思わせる主人公の醜さまで書き切り、日本の私小説の出発点となった場面。
原文を読む
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