アプリで読む

無料・登録不要

山椒大夫(森鴎外)のあらすじ・登場人物

安寿と厨子王、姉弟の受難

  • 詳細なあらすじ
  • 人物相関図
  • 歴史
  • 家族

森鴎外 1915年(大正4年)1月 「中央公論」

文字数
22,156字
読了目安
約44分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 新潟県
  • 京都府

この作品について

1915年(大正4年)1月、『中央公論』に発表された森鴎外の短編小説。説経節の演目として伝えられてきた「さんせう太夫」、いわゆる安寿と厨子王の物語を題材としている。母とともに旅をする姉弟が、人買いによって引き離され、丹後の山椒大夫のもとへ連れて行かれるところから物語が展開する。人が売り買いされる社会を背景に、離れた家族への思いと、姉弟の結びつきを描く。鴎外は同じ月の『歴史其儘と歴史離れ』で、本作の制作過程を自ら説明した。伝説を足場に、想像を働かせて小説を組み立てる姿勢を示しており、歴史的な題材と創作との関係を考えるうえでも重要な作品である。土地や時代を意識した簡潔な語りに、道中や海辺の風景、人物の言葉が配され、長く語り継がれた物語に独自の輪郭を与えている。原話との比較は、鴎外が何を選び、どのように語り直したかを知る手がかりとなる。

あらすじ

陸奥の役人だった父を訪ねて筑紫へ向かう途中、母と姉の安寿、弟の厨子王、召使いの姥竹の一行は、人買いにだまされて船に乗せられ、母と姥竹、姉弟とが無理やり引き離されてしまう。安寿と厨子王は丹後の荘園領主・山椒大夫に奴隷として売られ、過酷な労働を課せられる日々を送る。姉弟はいつか都へ逃れることを願い続け、ついに安寿は弟に逃げ道を教え、守り本尊を託して送り出す。のちに安寿の履物が沼のほとりで見つかる。都にたどり着いた厨子王は、身分の証となる守り本尊のはたらきによって窮地を救われ、やがて出世して国守となる。国守となった厨子王は、丹後一国で人の売り買いを禁じ、山椒大夫は奴婢を解放する。厨子王は佐渡へ渡り、目が見えなくなって農家で雀を追う母を探し当てる。雀を追う童歌のように「安寿恋しや、厨子王恋しや」と唱え続けていた母は、我が子の呼びかけに目を開き、二人はしっかりと抱き合うのだった。

登場人物

人物相関図

夫婦。十二年前に筑紫へ下ったまま主従。旅の供をする母と娘母と子。佐渡の粟畑で再会する護り刀を形見に残す姉と弟。守本尊を託して逃がす宿を貸すと欺き舟に乗せる母と姥竹を六貫文で売る姉弟を五貫文で売る蹴られて海へ身を投げる姉弟を七貫文で売り渡す垣衣と名づけ汐を汲ませる萱草と名づけ柴を刈らせる父と末子密談を立ち聞きし烙印の夢を招く汐の汲み方を教え姉妹の誓いを交わす討手から匿い都へ送り出す守本尊で素性を知り取り立てるたいらのまさうじ平正氏筑紫へ左遷された父。十二年帰らない母安寿と厨子王の母。三十歳を踰えたばかりうばたけ姥竹安寿の生まれた時からの女中あんじゅ安寿十四歳の姉。汐を汲まされるずしおう厨子王十二歳の弟。のち国守正道やまおかだゆう山岡大夫直江の浦の船乗り。人買いの手引き役いせのこはぎ伊勢の小萩二見が浦から売られてきた婢さんしょうだゆう山椒大夫丹後石浦の分限者。六十歳みやざきのさぶろう宮崎の三郎越中宮崎の人買いさどのじろう佐渡の二郎母と姥竹を買った人買いだゆうのさぶろう大夫の三郎山椒大夫の末子。討手を率いるどんもうりっし曇猛律師中山の国分寺の住持かんぱくもろざね関白師実清水寺で厨子王を見出す
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「詳細なあらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 越後の橋の下──山岡大夫
  5. 五 直江の浦、二艘の舟
  6. 六 山椒大夫の邸と、二つの名
  7. 七 烙印の夢と、安寿の変貌
  8. 八 髪を切る──そして山の別れ
  9. 九 国分寺の曇猛律師、都の関白
  10. 十 佐渡の粟畑
  11. 十一 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

越後の春日を経て今津へ出る道を、珍らしい旅人の一群れが歩いている。母は三十歳を踰えたばかりの女で、二人の子供を連れている。姉は十四、弟は十二である。それに四十ぐらいの女中が一人ついて、くたびれた同胞二人を、「もうじきにお宿にお着きなさいます」と言って励まして歩かせようとする。二人の中で、姉娘は足を引きずるようにして歩いているが、それでも気が勝っていて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折り折り思い出したように弾力のある歩きつきをして見せる。近い道を物詣りにでも歩くのなら、ふさわしくも見えそうな一群れであるが、笠やら杖やらかいがいしい出立ちをしているのが、誰の目にも珍らしく、また気の毒に感ぜられるのである。道は百姓家の断えたり続いたりする間を通っている。砂や小石は多いが、秋日和によく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのように踝を埋めて人を悩ますことはない。藁葺きの家が何軒も立ち並んだ一構えが柞の林に囲まれて、それに夕日がかっとさしているところに通りかかった。

「山椒大夫」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。女は目があいた。「厨子王」という叫びが女の口から出た。二人はぴったり抱き合った。

「山椒大夫」森鴎外(青空文庫)

名文

安寿恋しや、ほうやれほ。 厨子王恋しや、ほうやれほ。

佐渡に売られ、盲いた目で鳥を追いながら母が口ずさむ歌。離ればなれになった姉弟の物語の哀れを、この繰り返しが一身に集める。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品