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地獄変(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

屏風の由来を語る屋敷の声

  • 詳細なあらすじ
  • 人物相関図
  • 歴史
  • 心理

芥川龍之介 1918年(大正7年)5月 「大阪毎日新聞」

文字数
26,343字
読了目安
約53分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府

この作品について

1918年(大正7年)5月、『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』に連載された芥川龍之介の短編。『宇治拾遺物語』の絵師をめぐる説話に着想を得た、王朝を舞台とする作品である。堀川の大殿に長く仕えた者が、その屋敷に伝わる地獄変の屏風の由来を語る。絵師の良秀は腕を認められながら、人々からは容貌や振る舞いを嘲られ、その一人娘は屋敷で小女房を務めていた。大殿を並外れた人物として称える丁重な語り口と、良秀への露骨な嫌悪が同居するため、出来事だけでなく、誰がどの立場から語るかにも注意が向く。衣装や身振り、猿をめぐる屋敷の笑いといった細部にも、権力を持つ者と仕える者との隔たりが表れる。絵を描く営みと人の情、評価する側とされる側の関係を、華やかな屋敷の内側から問い直す。古典の筋をそのまま移すのでなく、語り手と娘を配した物語として作り替えている。

あらすじ

堀川の大殿様に仕える絵師・良秀は、傲岸で吝嗇、人には憎まれ者だが、その画技は当代随一と評判である。良秀はただ一人娘だけを溺愛しており、娘は大殿様の邸に小女房として仕えている。大殿様から地獄変の屏風を描くよう命じられた良秀は、弟子を鎖で縛り、耳木菟に襲わせるなど、実際に見たものしか描けぬ性分ゆえに凄惨な写生を重ねる。だが屏風の眼目である、炎に包まれた檳榔毛の車の中で悶え死ぬ上臈の姿だけは、どうしても描けない。良秀は大殿様に「檳榔毛の車を目の前で燃やしていただきたい」と願い出る。約束の夜、雪解の御所へ引き出された車の中に、鎖で縛められていたのは良秀の娘であった。大殿様の命で車に火がかけられ、燃え落ちる車と悶える娘を前に、良秀は苦悶の表情から一転、恍惚たる法悦の輝きを顔に浮かべて立ち尽くす。ほどなく屏風は完成し、見る者すべてを厳かな心持ちに打ったが、良秀は絵が成った次の夜、梁に縄をかけて自ら命を絶った。

登場人物

人物相関図

屏風を命じ、娘は返さぬと拒む小女房として召し上げ贔屓に父と子父と姫君父と娘。狂おしく可愛がる側を離れず仕える良秀と名づけ折檻しかける猿を救い、猿は火中まで従う悪夢の枕もとに坐らせる鎖で縛り写生する耳木兎をけしかける憎むが屏風を見て膝を打つ二十年の奉公。一部始終を語る夜の一件に行き合わせる娘の危急を知らせに来る堀川の大殿様権者の再来と仰がれる権力者よかわのそうず横川の僧都良秀を憎む高徳の僧語り手大殿様に二十年仕える奉公人若殿様大殿様の子。悪戯盛り御姫様大殿様の姫君よしひで良秀本朝第一の絵師。猿秀とあだ名される良秀の娘十五歳の小女房。心やさしい一人娘年かさの弟子師の午睡の枕もとに坐らされる逞しい弟子鎖で縛られ写生される少年の弟子十三、四歳。耳木兎に襲われる猿の良秀丹波から献上された小猿。娘と離れない
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「詳細なあらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 堀川の大殿様と絵師良秀
  5. 五 娘と小猿の「良秀」
  6. 六 地獄変の屏風という絵
  7. 七 狂気の写生──弟子たちの受難
  8. 八 娘の異変と、車を焼く願い
  9. 九 雪解の御所の炎
  10. 十 屏風の完成と良秀の死
  11. 十一 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

堀川の大殿様のやうな方は、これまでは固より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、大威徳明王の御姿が御母君の夢枕にお立ちになつたとか申す事でございますが、兎に角御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。

「地獄変」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

しかしさうなつた時分には、良秀はもうこの世に無い人の数にはいつて居りました。それも屏風の出来上つた次の夜に、自分の部屋の梁へ縄をかけて、縊れ死んだのでございます。一人娘を先立てたあの男は、恐らく安閑として生きながらへるのに堪へなかつたのでございませう。屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まつて居ります。尤も小さな標の石は、その後何十年かの雨風に曝されて、とうの昔誰の墓とも知れないやうに、苔蒸してゐるにちがひございません。

「地獄変」芥川龍之介(青空文庫)

名文

堀川の大殿様のやうな方は、これまでは固より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。

大殿に仕えた者の語りとして進む物語の書き出し。絵師良秀が娘の焼死を凝視して屏風を仕上げる、芸術と業の物語が始まる。

さつきまで地獄の責苦に悩んでゐたやうな良秀は、今は云ひやうのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、皺だらけな満面に浮べながら、大殿様の御前も忘れたのか、両腕をしつかり胸に組んで、佇んでゐるではございませんか。

燃え上がる牛車の中で娘が焼かれるのを前に、絵師良秀が見せる表情。親の情を超えて芸術に憑かれた者の姿を、語り手が恐れとともに伝えるクライマックス。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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