不如帰(徳冨蘆花)のあらすじ・登場人物
伊香保から始まる夫婦の物語
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 恋愛
- 家族
- 文字数
- 129,550字
- 読了目安
- 約4時間19分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 群馬県
- 神奈川県
- 東京都
この作品について
徳冨蘆花が1898年(明治31年)から翌年にかけて『国民新聞』に連載し、1900年に民友社から刊行した長編小説。陸軍中将の娘・浪子と、海軍士官の川島武男が結婚し、伊香保の宿で過ごす新婚の日々から始まる。旅先の夕景を見つめる浪子、山歩きから快活に戻る武男、娘時代から世話をする老女の会話が、若い夫婦の暮らしを紹介する。親世代の考え方や家同士の関係を背景に、結婚した二人が何を大切にして生活するかが問われていく。地の文には文語を用い、人物同士の会話には口語や身分・年齢による言葉の違いを取り入れている。第百版に寄せた巻頭文で、作者は逗子である婦人から聞いた話をもとに、創作を加えた経緯を明かした。実話をそのまま写した記録ではなく、風景描写と会話、家族の事情を組み合わせて語る家庭小説である。
あらすじ
陸軍中将・片岡家の一人娘である浪子は、海軍少尉・川島武男のもとへ嫁ぎ、伊香保や逗子で新婚の日々を過ごしながら、互いを深く思い合う睦まじい夫婦となる。だが浪子は次第に肺結核を病んでいく。武男が日清戦争へ出征して家を留守にする間、家の血筋の絶えることを恐れる姑のお慶は、労咳を病む嫁を厭い、川島家にふさわしくないとして、武男の意に反して浪子を実家へ帰す離縁を強行する。武男は姑に激しく抗い、なおも浪子を愛し続けるが、家の掟の前になすすべもない。引き裂かれた浪子は病を重ねながら、ただ夫を慕い、女として生まれた身の不運を嘆く。ある日、汽車で行き会った二人はほんの束の間、言葉少なに再会を果たすが、それが今生の別れとなる。やがて浪子は夫への思いを胸に抱いたまま息を引き取る。すべてが終わったのち、浪子の墓前に額ずく武男のもとへ、娘の死を悔いる片岡中将が訪れ、二人は互いの悲しみに手を取り合って涙するのであった。
登場人物
- 浪子 片岡中将の一人娘。川島武男に嫁ぐが肺結核を病み、家の犠牲となって離縁される薄幸のヒロイン
- 川島武男 浪子の夫。海軍士官。妻を深く愛し、姑の非情な仕打ちに抗うが家の掟に阻まれる
- お慶 武男の母。家の体面と血筋を重んじ、労咳の嫁・浪子を厭って離縁を強行する
- 片岡中将 浪子の父。陸軍中将。娘を溺愛し、その悲運と早すぎる死を悔いる
- 千々岩安彦 武男の従兄。浪子に横恋慕して退けられ、その恨みから離縁をそそのかす
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 伊香保の新婚──月見草のような人
- 五 姑と従兄──川島家の日々
- 六 逗子の誓いと、留守中の離縁
- 七 黄海海戦と旅順
- 八 逗子の秋──不動祠の岩
- 九 山科の一瞬
- 十 結末──「もう婦人なんぞに生まれはしませんよ」
- 十一 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
上州伊香保千明の三階の障子開きて、夕景色をながむる婦人。年は十八九。品よき丸髷に結いて、草色の紐つけし小紋縮緬の被布を着たり。 色白の細面、眉の間ややせまりて、頬のあたりの肉寒げなるが、疵といわば疵なれど、瘠形のすらりとしおらしき人品。これや北風に一輪勁きを誇る梅花にあらず、また霞の春に蝴蝶と化けて飛ぶ桜の花にもあらで、夏の夕やみにほのかににおう月見草、と品定めもしつべき婦人。
「不如帰」徳冨蘆花(青空文庫)
末尾部(原文より)
たちまち武男は無手とわが手を握られ、ふり仰げば、涙を浮かべし片岡中将の双眼と相対いぬ。 「武男さん、わたしも辛かった!」 互いに手を握りつつ、二人が涙は滴々として墓標の下に落ちたり。 ややありて中将は涙を払いつ。武男が肩をたたきて 「武男君、浪は死んでも、な、わたしはやっぱい卿の爺じゃ。しっかい頼んますぞ。――前途遠しじゃ。――ああ、久しぶり、武男さん、いっしょに行って、ゆるゆる台湾の話でも聞こう!」
「不如帰」徳冨蘆花(青空文庫)
名文
ああつらい! つらい! もう――もう婦人なんぞに――生まれはしませんよ。
不治の病に引き裂かれた浪子の、絶唱ともいうべき臨終間際の叫び。明治の世を涙で染めたベストセラーの名場面。
あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう! 生きたいわ! 千年も万年も生きたいわ! 死ぬなら二人で! ねエ、二人で!
逗子の海辺で、結核を病む浪子が夫の武男に語りかける言葉。生きたいと願う切実な叫びは、明治の読者の涙を誘った本作の名場面として知られる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。