不如帰(徳冨蘆花)のあらすじ・登場人物

家制度に引き裂かれた夫婦愛

作者
徳冨蘆花
発表
1898年(明治31年)11月
初出
国民新聞
種別
小説
ジャンル
  • 恋愛
  • 家族
舞台
  • 群馬県
  • 神奈川県
  • 東京都
文字数
129,550字
読了目安
約4時間19分
表記
新字新仮名

この作品について

徳富蘆花が1898年(明治31年)から翌年にかけて「国民新聞」に連載した長編小説。海軍士官の武男と、その妻となった浪子の若く清らかな夫婦愛が、浪子の患う肺結核と、家の体面を重んじる姑によって無残に引き裂かれていく。「ああつらい! つらい! もう――もう婦人なんぞに――生まれはしませんよ」という浪子の悲痛な叫びは全国の読者の涙を誘い、単行本は版を重ねて明治期最大のベストセラーとなった。家制度の非情と病者への無理解を告発した、日本近代の家庭小説を代表する記念碑的作品である。

あらすじ

陸軍中将・片岡家の一人娘である浪子は、海軍少尉・川島武男のもとへ嫁ぎ、伊香保や逗子で新婚の日々を過ごしながら、互いを深く思い合う睦まじい夫婦となる。だが浪子は次第に肺結核を病んでいく。武男が日清戦争へ出征して家を留守にする間、家の血筋の絶えることを恐れる姑のお慶は、労咳を病む嫁を厭い、川島家にふさわしくないとして、武男の意に反して浪子を実家へ帰す離縁を強行する。武男は姑に激しく抗い、なおも浪子を愛し続けるが、家の掟の前になすすべもない。引き裂かれた浪子は病を重ねながら、ただ夫を慕い、女として生まれた身の不運を嘆く。ある日、汽車で行き会った二人はほんの束の間、言葉少なに再会を果たすが、それが今生の別れとなる。やがて浪子は夫への思いを胸に抱いたまま息を引き取る。すべてが終わったのち、浪子の墓前に額ずく武男のもとへ、娘の死を悔いる片岡中将が訪れ、二人は互いの悲しみに手を取り合って涙するのであった。

登場人物

人物相関図

一年ほどで引き裂かれる夫婦母。孝行だがこの一件は譲らず労咳を絶家の脅威と見る艶書を退けられ離縁を煽る川島家に養われた孤離縁の名代を務めさせる父。溺愛する継子を拗ね者と思い誤る最後までそばにいる媒妁を務め、母代わりとなる片岡子爵夫人浪子の継母。英国留学の経験もあるおけいお慶武男の母。五十三。家の血筋を守ろうとするちぢわやすひこ千々岩安彦陸軍中尉。武男の従兄で川島家に養われた孤児かたおかちゅうじょう片岡中将陸軍中将・子爵。薩摩出身の豪放な軍人なみこ浪子片岡中将の長女。八歳で実母を亡くしたかわしまたけお川島武男海軍少尉、男爵。二十三、四やまきひょうぞう山木兵造不義の金で財を成した成金加藤子爵夫人浪子の亡き実母の姉。媒妁を務めた幾(ばあや)浪子が実家から連れてきた老女
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 伊香保の新婚──月見草のような人
  5. 五 姑と従兄──川島家の日々
  6. 六 逗子の誓いと、留守中の離縁
  7. 七 黄海海戦と旅順
  8. 八 逗子の秋──不動祠の岩
  9. 九 山科の一瞬
  10. 十 結末──「もう婦人なんぞに生まれはしませんよ」
  11. 十一 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

上州伊香保千明の三階の障子開きて、夕景色をながむる婦人。年は十八九。品よき丸髷に結いて、草色の紐つけし小紋縮緬の被布を着たり。 色白の細面、眉の間ややせまりて、頬のあたりの肉寒げなるが、疵といわば疵なれど、瘠形のすらりとしおらしき人品。これや北風に一輪勁きを誇る梅花にあらず、また霞の春に蝴蝶と化けて飛ぶ桜の花にもあらで、夏の夕やみにほのかににおう月見草、と品定めもしつべき婦人。

『不如帰』徳冨蘆花(青空文庫)

末尾部(原文より)

たちまち武男は無手とわが手を握られ、ふり仰げば、涙を浮かべし片岡中将の双眼と相対いぬ。 「武男さん、わたしも辛かった!」 互いに手を握りつつ、二人が涙は滴々として墓標の下に落ちたり。 ややありて中将は涙を払いつ。武男が肩をたたきて 「武男君、浪は死んでも、な、わたしはやっぱい卿の爺じゃ。しっかい頼んますぞ。――前途遠しじゃ。――ああ、久しぶり、武男さん、いっしょに行って、ゆるゆる台湾の話でも聞こう!」

『不如帰』徳冨蘆花(青空文庫)

名文

ああつらい! つらい! もう――もう婦人なんぞに――生まれはしませんよ。

不治の病に引き裂かれた浪子の、絶唱ともいうべき臨終間際の叫び。明治の世を涙で染めたベストセラーの名場面。

原文を読む

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