たけくらべ(樋口一葉)のあらすじ・登場人物

大人になる前の淡く輝く初恋

作者
樋口一葉
発表
1895年(明治28年)1月
初出
文学界
種別
小説
ジャンル
  • 恋愛
  • 青春
舞台
  • 東京都
文字数
28,676字
読了目安
約57分
表記
新字旧仮名

この作品について

樋口一葉の代表作となった中編小説。1895年(明治28年)から翌年にかけて雑誌「文学界」に断続的に連載され、1896年(明治29年)に「文芸倶楽部」へ一括掲載されると、森鴎外や幸田露伴らから絶賛を浴びた。吉原遊郭に隣り合う下町・大音寺前を舞台に、大人の世界の入り口に立たされた少年少女の淡い恋と別れを、雅俗折衷の流麗な文体で描く。子供時代の終わりの一瞬の輝きと哀しみをとらえた、日本近代文学屈指の名品である。

あらすじ

吉原にほど近い大音寺前の町。廓の人気花魁を姉に持つ美登利は、勝気で気前がよく、子供たちの人気者である。町の子供は正太郎率いる表町組と、鳶頭の息子・長吉率いる横町組に分かれて張り合っており、千束神社の夏祭りの夜、横町組が筆屋に乱入して美登利は面前で辱めを受ける。一方、龍華寺の跡取り息子でやがて僧侶となる信如は、生真面目な性分ゆえに美登利と口をきくこともできない。時雨の朝、美登利の家の門前で下駄の鼻緒を切らした信如に、美登利は友禅の端切れを差し出すが、互いに意識するあまり言葉を交わせぬまますれ違う。やがて美登利は少女から遊女となる運命の身の上へと変わるときを迎え、人が変わったように快活さを失っていく。ある霜の朝、家の格子門に水仙の作り花が差し入れられていた。その翌日は、信如が僧侶の学校へと旅立つ日だった。

登場人物

人物相関図

思い合いながら一度も口をきかぬ姉。後ろ盾であり美登利の行く先父。寺と貸金を継がせる娘。葉茶屋の帳場に据える姉。使いの帰りに鼻緒が切れる姉の身売りを頼り紀州から出てきた子供らのたまり場恋の噂をはやすいちばん近い友祖母。日掛けの金を集めさせる表町組と横町組子供大将の対立祭りの夜、額へ泥草履を投げつける鼻緒の切れた信如に下駄を貸す家主の子。逆らえぬ間柄身代わりに袋叩きにされる美登利の父母父は小格子の書記、母は寮を預かるおおまき大巻美登利の姉。大黒屋のお職を張る花魁りゅうげじのだいおしょう龍華寺の大和尚信如の父。貸金と酉の市の簪売りおはなお花信如の姉。田町の葉茶屋の帳場に立つふでやのにょうぼう筆やの女房子供らのたまり場の店の内儀みどり美登利大黒屋の寮に住む数え十四の少女しんにょ信如龍華寺の一人息子。育英舎一の秀才たなかやのごけ田中屋の後家正太の祖母。六十四。日掛けの金を集めるしょうたろう正太郎表町の田中屋の跡取り。十三ちょうきち長吉横町組の子供大将。鳶の頭の息子さんごろう三五郎車夫の子。横町と表町の板挟み
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 導入──大音寺前と、祭りをひかえた子供たち
  5. 五 祭りの夜──筆屋の乱闘と泥草履
  6. 六 大川一つ──美登利と信如のいきさつ
  7. 七 龍華寺の内側──信如という子
  8. 八 秋雨の夜──見送る後ろ姿
  9. 九 時雨の朝──切れた鼻緒と紅入り友仙
  10. 十 三の酉──大島田の朝
  11. 十一 結末──水仙の作り花
  12. 十二 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き。

『たけくらべ』樋口一葉(青空文庫)

末尾部(原文より)

或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり、誰れの仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆゑとなく懐かしき思ひにて違ひ棚の一輪ざしに入れて淋しく清き姿をめでけるが、聞くともなしに伝へ聞くその明けの日は信如が何がしの学林に袖の色かへぬべき当日なりしとぞ。

『たけくらべ』樋口一葉(青空文庫)

名文

廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き。

吉原大門のほとりの遊里を、流れるような雅俗折衷の名調子で描き出す冒頭。少年少女の淡い日々を包む、町のにぎわいと空気が立ち上る。

或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり、誰れの仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆゑとなく懐かしき思ひにて違ひ棚の一輪ざしに入れて淋しく清き姿をめでけるが

結び。僧となるために去っていく信如が、名も告げずに残した水仙の造花だけが、口にされなかった思いを伝える。

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