金色夜叉(尾崎紅葉)のあらすじ・登場人物
熱海の海岸、金に裏切られた恋
- 作者
- 尾崎紅葉
- 発表
- 1897年(明治30年)1月
- 初出
- 読売新聞
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 恋愛
- 社会
- 舞台
- 東京都
- 静岡県
- 文字数
- 252,196字
- 読了目安
- 約8時間24分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
尾崎紅葉の代表作にして明治を代表する新聞小説の金字塔。1897年(明治30年)1月1日から「読売新聞」に連載され、金と愛に翻弄される男女の悲恋を描いて絶大な人気を博したが、紅葉の病により断続的な掲載となり、1902年(明治35年)5月11日の「新続金色夜叉」を最後に中絶。翌1903年(明治36年)10月に紅葉が胃癌で世を去り、未完のまま残された。熱海の海岸で許婚に裏切られた男が復讐を誓う名場面は今なお広く知られ、熱海には貫一とお宮の像も建てられている。金銭が人の心を蝕んでいく明治の世相を鋭く描き出した、日本近代文学屈指の長編である。
あらすじ
高等中学校の学生・間貫一は、幼くして母を、十五歳のとき父を失い、亡父を恩人と仰ぐ鴫沢隆三の家に十年来寄寓して、その一人娘・宮と将来を約した仲だった。ところが正月のかるた会で、宮は富山銀行を営む富山重平の息子・唯継に見初められる。おのれの美貌を恃んで玉の輿を夢見ていた宮の心は縁談に揺れ、鴫沢の両親も洋行させてやるからと貫一に身を引くよう迫る。熱海の海岸で貫一は宮を問い詰めるが、彼女は胸の内を明かさぬまま翻意しない。逆上した貫一は宮を蹴り倒し、「来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せる」と恨みの言葉を残して姿を消す。学業を捨てた貫一は、強欲な高利貸し・鰐淵直行の手代となり、情け容赦のない金貸しとして金の力で世に報いようとする。四年の後、富山家に嫁いだ宮は不幸な暮らしの中でおのれの過ちを悔い、悔悟の手紙を書き送り続けるが、貫一は封も切らずに焼き捨てる。物語には、貫一に執拗に言い寄る美貌の女高利貸・赤樫満枝、身を落とした貫一を諫める旧友・荒尾譲介、貫一が心中の淵から救った狭山元輔と愛子(お静)の恋人たちが絡んでゆくが、宮の長い悔悟の手紙を貫一がついに読み終える場面を最後に、紅葉の死により未完のまま途絶えている。
登場人物
- 間貫一(はざま かんいち) 主人公。高等中学の学生だったが、許婚の宮に裏切られて学業を捨て、高利貸しとなって金の力で世に復讐しようとする
- 鴫沢宮(しぎさわ みや/お宮) 貫一の許婚。おのれの美貌を恃んで玉の輿を夢見ており、富山との縁談に心を動かして貫一を捨てる。嫁いだ後は悔悟の手紙を送り続ける
- 富山唯継(とみやま ただつぐ) 富山銀行を営む富山重平の息子。かるた会で宮を見初め、妻に迎える
- 鰐淵直行(わにぶち ただゆき) 貫一が手代として仕える強欲な高利貸し
- 赤樫満枝(あかがし みつえ) 「美人クリイム」と呼ばれる美貌の女高利貸し。中風に倒れた夫・権三郎に代わって商売を切り回し、貫一に執拗に言い寄る
- 荒尾譲介(あらお じょうすけ) 貫一が兄事した同窓の親友。高利貸しに身を落とした貫一を諫める
- 狭山元輔(さやま もとすけ)・愛子(あいこ/お静) 金ゆえに心中を図ったところを貫一に救われた男と新橋の芸者。以後、貫一の家に身を寄せる
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 導入──かるた会と金剛石の指環
- 五 展開──熱海の海岸、そして高利貸へ
- 六 転回──襲撃と鰐淵家の炎上
- 七 続金色夜叉──宮の再訪と暁の夢
- 八 続続金色夜叉──塩原の心中
- 九 結末──未完の幕切れ
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
未だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠めて、真直に長く東より西に横はれる大道は掃きたるやうに物の影を留めず、いと寂くも往来の絶えたるに、例ならず繁き車輪の輾は、或は忙かりし、或は飲過ぎし年賀の帰来なるべく、疎に寄する獅子太鼓の遠響は、はや今日に尽きぬる三箇日を惜むが如く、その哀切に小き膓は断れぬべし。
『金色夜叉』尾崎紅葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
思へば、人の申候ほど死ぬる事は可恐きものに無御座候。私は今が今此儘に息引取り候はば、何よりの仕合と存参らせ候。唯後に遺り候親達の歎を思ひ、又我身生れ効も無く此世の縁薄く、かやうに今在る形も直に消えて、此筆、此硯、此指環、此燈も此居宅も、此夜も此夏も、此の蚊の声も、四囲の者は皆永く残り候に、私独り亡きものに相成候て、人には草花の枯れたるほどにも思はれ候はぬ儚さなどを考へ候へば、返す返す情無く相成候て、心ならぬ未練も出で申候。
『金色夜叉』尾崎紅葉(青空文庫)
名文
可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……月が……曇つたらば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のやうに泣いてゐると思つてくれ
熱海の海岸で許婚の宮に捨てられた貫一が、朧月を仰いで言い放つ別れの言葉。新派の芝居や流行歌を通じて広まり、近代文学屈指の名台詞となった。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。