土(長塚節)のあらすじ・登場人物

鬼怒川べりの小作農の四季

作者
長塚節
発表
1910年(明治43年)6月
初出
東京朝日新聞
種別
小説
ジャンル
  • 家族
  • 社会
舞台
  • 茨城県
文字数
227,057字
読了目安
約7時間34分
表記
旧字旧仮名

この作品について

貧しい小作農・勘次一家の暮らしを、鬼怒川べりの農村の四季とともに克明に描いた長編小説。妻お品の死に始まる貧困と労働の日々を、感傷をいっさい排した徹底した写生の筆で写しとる。作者自身の郷里・茨城の農民生活を素材に、日本の農民文学を確立した記念碑的作品で、夏目漱石が「東京朝日新聞」への連載を後押ししたことでも知られる。

あらすじ

鬼怒川のほとりの寒村。小作人の勘次は、豆腐や蒟蒻を商いながら家計を助ける妻お品と、娘おつぎ・幼い与吉とともに、土にかじりつくような貧しい暮らしを送っていた。ある冬の日、身ごもったお品は自ら子を堕ろそうとして病に倒れ、若くして命を落とす。残された勘次は、まだ幼いおつぎに家事と弟の世話を負わせ、自らは黙々と田畑に鍬をふるう。やがて妻の父である老爺・卯平が同居するようになるが、頑固な老人と勘次の折り合いは悪く、貧しさは家の中の諍いをいっそう険しくする。火事や病、そして絶えることのない金の苦労――大自然の営みと農事の労働が淡々と積み重ねられるなかで、名もなき百姓たちの生と死が、いっさいの美化を排した写生の目で描き出される。派手な筋立てを持たず、鬼怒川べりの土と季節そのものを主人公とするようなこの長編は、近代日本の農民文学の礎となった。

人物相関図

妻。第四章の終わりに死ぬ継父。血はつながらない反目し、庭先の小屋へ追われる娘。母の死後家を支える息子。火遊びで家を焼く姉弟姉。保証人を頼みに来る息子盗みを庇い、話を聞いてやるおしなお品勘次の妻。豆腐を行商しながら百姓仕事もうへい卯平お品の継父。火事の責めに耐えかねるおつた勘次の姉。五十を幾つも越えた女かんじ勘次鬼怒川西岸の村の小作人。唐鍬一挺を頼りに生きる東隣の内儀さん勘次が小作をする地主の妻盲目の甥おつたの息子。奉公先で目を潰したおつぎ勘次とお品の娘。母の死のとき十五よきち與吉勘次とお品の息子。火遊びが好き
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 妻の死──ほおずきの根
  5. 五 残された三人──櫟の根と巡査
  6. 六 土から盗む──蜀黍と赤い帯
  7. 七 閉ざされた戸口と、口寄せ
  8. 八 爺様が還る──小屋と火箸
  9. 九 火事──そして焼跡の銅貨
  10. 十 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

烈しい西風が目に見えぬ大きな塊をごうつと打ちつけては又ごうつと打ちつけて皆痩こけた落葉木の林を一日苛め通した。木の枝は時々ひう/\と悲痛の響を立てゝ泣いた。短い冬の日はもう落ちかけて黄色な光を放射しつゝ目叩いた。さうして西風はどうかするとぱつたり止んで終つたかと思ふ程靜かになつた。泥を拗切つて投げたやうな雲が不規則に林の上に凝然とひつゝいて居て空はまだ騷がしいことを示して居る。それで時々は思ひ出したやうに木の枝がざわ/″\と鳴る。世間が俄に心ぼそくなつた。  お品は復た天秤を卸した。お品は竹の短い天秤の先へ木の枝で拵へた小さな鍵の手をぶらさげてそれで手桶の柄を引つ懸けて居た。お品は百姓の隙間には村から豆腐を仕入れて出ては二三ヶ村を歩いて來るのが例である。手桶で持ち出すだけのことだから資本も要ない代には儲も薄いのであるが、それでも百姓ばかりして居るよりも日毎に目に見えた小遣錢が取れるのでもう暫くさうして居た。

『土』長塚節(青空文庫)

末尾部(原文より)

「誠にどうもお内儀さん」彼は財布を帶から解いて出した時酷く減つて畢つたやうに感じて、其の財布を外から一寸見て首を傾けた。彼は又財布の底の錢を攫み出して見た。燒趾の灰から出て青銅のやうに變つた銅貨はぽつ/\と燒けた皮を殘して鮮かな地質が剥けて居た。彼はそれを目に近づけて暫く凝然と見入つた。彼は心づいた時俄に怖れたやうに内儀さんを顧つてじやらりと其の錢を財布の底へ落した。

『土』長塚節(青空文庫)

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