こころ(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
「先生」の孤独と罪の告白
- 作者
- 夏目漱石
- 発表
- 1914年(大正3年)4月
- 初出
- 朝日新聞
- 種別
- 小説
- ジャンル
- 恋愛
- 心理
- 舞台
- 東京都
- 神奈川県
- 文字数
- 161,028字
- 読了目安
- 約5時間22分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
夏目漱石の後期三部作の掉尾を飾る長編小説。1914年(大正3年)に朝日新聞で連載された。「上 先生と私」「中 両親と私」「下 先生と遺書」の三部構成で、明治の精神とともに生きた「先生」の孤独と罪の意識を、青年である「私」の視点と先生自身の遺書を通して描く。エゴイズムと倫理、友情と恋愛の相克という普遍的な主題を扱い、日本近代文学における最高峰の一つとして今なお広く読み継がれている。
あらすじ
大学生の「私」は鎌倉の海岸で「先生」と出会い、その人柄に惹かれて親交を深めていく。先生は世間と距離を置いて静かに暮らしており、その厭世的な態度の裏には何か暗い過去があるらしいことを私は感じ取る。やがて父の病のため帰郷した私のもとに、先生から長い手紙——遺書が届く。そこには先生の過去が綴られていた。学生時代、先生は親友Kと同じ下宿の御嬢さんに恋をした。Kから御嬢さんへの恋心を打ち明けられた先生は、先んじて御嬢さんとの結婚を取り決めてしまう。裏切りを知ったKは自ら命を絶ち、先生は生涯その罪の意識を抱えて生きることになった。そして明治天皇の崩御と乃木大将の殉死を機に、先生もまた「明治の精神」に殉じて死を選ぶのだった。
登場人物
- 私 先生を慕う大学生。物語の語り手
- 先生 世間と距離を置いて生きる知識人。暗い過去を抱える
- K 先生の学生時代の親友。求道的な性格の書生
- 御嬢さん(静) 下宿先の娘。のちの先生の妻
- 奥さん 御嬢さんの母。下宿の女主人
人物相関図
章ごとの「厳選あらすじ」
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- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 上 先生と私(一)──鎌倉の海と雑司ヶ谷の墓
- 五 上 先生と私(二)──「恋は罪悪ですよ」
- 六 中 両親と私──父の病と、届いた分厚い手紙
- 七 下 先生と遺書(一)──叔父に欺かれた青年
- 八 下 先生と遺書(二)──小石川の家、お嬢さん、そしてK
- 九 下 先生と遺書(三)──Kの告白と、上野の「覚悟」
- 十 下 先生と遺書(四)──襖に迸る血潮
- 十一 結末──明治の精神に殉ずる
- 十二 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。
『こころ』夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は妻の記憶に暗黒な一点を印するに忍びないのです。妻が己れの過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存して置いてやりたいのが私の唯一の希望なのですから、私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、凡てを腹の中に仕舞って置いて下さい。
『こころ』夏目漱石(青空文庫)
名文
私はその人を常に先生と呼んでいた。
「先生」と呼ぶ人への追想から静かに語り起こす書き出し。人間の孤独とエゴイズムを見つめた、漱石後期を代表する長編を貫く調子。
私はまず「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」といい放ちました。これは二人で房州を旅行している際、Kが私に向って使った言葉です。
恋敵となったKへ、彼自身の言葉をそのまま投げ返す場面。この一言が友を追い詰め、「先生」の生涯の負い目となる。
「奥さん、お嬢さんを私に下さい」
先生が下宿の奥さんに結婚を申し込む場面。同じ人を思うKに何も告げずに発したこの一言が、友の死と生涯の悔恨を呼び寄せる。
その時私は明治の精神が天皇に始まって天皇に終ったような気がしました。
明治天皇の崩御を受けた先生の述懐。続く乃木大将の殉死の報とともに、自らの死を一つの時代の終わりへ重ねていく。
原文を読む
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