高野聖(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

山中の孤家に棲む妖艶な女

作者
泉鏡花
発表
1900年(明治33年)2月
初出
新小説
種別
小説
ジャンル
  • 怪奇
  • 幻想
舞台
  • 岐阜県
  • 福井県
文字数
36,052字
読了目安
約1時間12分
表記
新字新仮名

この作品について

泉鏡花の代表作となった幻想小説。1900年(明治33年)2月、雑誌「新小説」に発表された。旅の若者が汽車で乗り合わせた高野山の旅僧・宗朝から聞かされる、若き日の怪異な体験譚という額縁構造を持つ。妖艶な女が支配する山中の孤家という幻想世界を、絢爛な文語文体で描き出し、鏡花のロマン主義文学の頂点として今なお高い評価を受けている。

あらすじ

汽車に乗り合わせた「私」は、高野山の旅僧・宗朝と道連れになり、敦賀の宿でその若き日の体験を聞かされる。かつて修行中の宗朝は、飛騨から信州へ抜ける天生峠で、旧道へ迷い込んだ富山の薬売りを追って自らも廃道へ踏み込み、蛇と蛭の群がる難所を越えて、山中に一軒だけ建つ孤家にたどり着く。そこには美しくも妖しい魅力を放つ女と、両足の立たない白痴の男、そして女を「嬢様」と呼ぶ親仁が暮らしていた。谷川で肌をさすられ、その裸身を目にした宗朝は、言い知れぬ官能と恐怖を味わう。翌朝、里近くの滝で出会った親仁の口から、女には言い寄る男に息をかけて獣に変えてしまう力があり、あの薬売りもすでに馬にされて売られたのだと聞かされた宗朝は、恐れをなして一散に山を駆け下りるのだった。

登場人物

人物相関図

一夜の宿。心を惹かれる物語を聞き出す旧道へ踏み込ませる発端息をかけられ馬に変えられる旧道は通れぬと警告する「亭主」として世話をする供をして来た男。正体を語る父。娘の霊力で繁盛した内弟子。霊力の評判を広めた「私」若狭へ帰省する青年。額縁部分の語り手富山の売薬万金丹の行商人。ねじねじした厭な壮佼しゅうちょう宗朝高野山に籍を置く旅僧。自ら「臆病者」と言うおんな婦人天生峠の孤家の女。言い寄る男を獣に変えるいしゃ医者婦人の父。傲慢な見得坊。洪水で死に絶える田圃の百姓天秤棒を担いで本道を渡って来る男おやじ親仁孤家に出入りする老人。婦人を「嬢様」と呼ぶ白痴の少年婦人が「亭主」として世話をする男くまぞう熊蔵医者の内弟子。薬局兼下男の二十四、五
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「厳選あらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 旅僧との道連れ──敦賀の宿の一夜
  5. 五 天生峠へ──蛇の道と蛭の森
  6. 六 孤家の女──谷川の行水
  7. 七 馬、夕餉、そして夜半の魑魅魍魎
  8. 八 女夫滝──親仁の語る正体
  9. 九 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

「参謀本部編纂の地図をまた繰開いて見るでもなかろう、と思ったけれども、余りの道じゃから、手を触るさえ暑くるしい、旅の法衣の袖をかかげて、表紙を附けた折本になってるのを引張り出した。飛騨から信州へ越える深山の間道で、ちょうど立休らおうという一本の樹立も無い、右も左も山ばかりじゃ、手を伸ばすと達きそうな峰があると、その峰へ峰が乗り、巓が被さって、飛ぶ鳥も見えず、雲の形も見えぬ。

『高野聖』泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

藻抜けのように立っていた、私が魂は身に戻った、そなたを拝むと斉しく、杖をかい込み、小笠を傾け、踵を返すと慌しく一散に駈け下りたが、里に着いた時分に山は驟雨、親仁が婦人に齎らした鯉もこのために活きて孤家に着いたろうと思う大雨であった。」高野聖はこのことについて、あえて別に註して教を与えはしなかったが、翌朝袂を分って、雪中山越にかかるのを、名残惜しく見送ると、ちらちらと雪の降るなかを次第に高く坂道を上る聖の姿、あたかも雲に駕して行くように見えたのである。

『高野聖』泉鏡花(青空文庫)

名文

参謀本部編纂の地図をまた繰開いて見るでもなかろう、と思ったけれども、余りの道じゃから、手を触るさえ暑くるしい、旅の法衣の袖をかかげて、表紙を附けた折本になってるのを引張り出した。

旅の僧が飛騨の山越えを語り出す冒頭。深山の妖異と美女の幻に彩られた、鏡花幻想文学の代表作の幕開け。

濁った黒い滑らかな肌に茶褐色の縞をもった、疣胡瓜のような血を取る動物、こいつは蛭じゃよ。

飛騨の山中で旅の僧が全身に蛭を浴びる場面。粘りつくような描写が、この先に待つ妖しい出来事への戦慄を高める。

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