孤島の鬼(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
手記に刻まれた孤島の謎
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 181,869字
- 読了目安
- 約6時間4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1929年(昭和4年)1月から翌年2月まで、博文館の雑誌『朝日』に連載された江戸川乱歩の長編小説。若くして髪が真白になった語り手が、過去の異様な体験を書き残そうとする手記の形をとる。貿易商に勤める蓑浦と恋人の木崎初代、友人の諸戸道雄をめぐって、不可解な事件と人間関係が絡み合っていく。論理では説明しがたい出来事を調べる探偵小説の趣向に、孤島を舞台とする冒険や怪奇的な想像力を重ねた構成に特色がある。読者に向けて事情を補いながら進む一人称の文章には、事件を説明したい気持ちと、私的な経験を打ち明けるためらいとが同居する。恋愛や友情を一筋縄では捉えられないものとして描き、他者への憧れと警戒とを謎の中に織り込む。乱歩の長編における、推理と幻想の結びつきを味わえる作品である。
あらすじ
貿易商社に勤める蓑浦は、恋人の木崎初代を密室状態の自宅で何者かに刺殺され、続いて捜査を託した素人探偵・深山木幸吉までも、白昼の海水浴場で衆人環視のうちに殺害されてしまう。二つの不可能犯罪の真相は、古道具屋で売られた七宝の花瓶に身をひそめた少年軽業師・友之助が、縁の下から忍び込んで手を下していたという意外なものだった。蓑浦に恋心を抱く友人・諸戸道雄と組んで黒幕を追う蓑浦は、初代の遺した古い系図帳に隠された暗号と、双生児の奇妙な日記を手がかりに、道雄の郷里である紀州の孤島・岩屋島へ渡る。島の主・諸戸丈五郎は、醜い容貌ゆえに人間を憎み抜き、買い集めた赤子を手術で不具者に作り変えて見世物に売る恐るべき人物であり、友之助もその手先、土蔵に幽閉された美しい娘・秀ちゃんら奇形児たちもその犠牲者であった。丈五郎を追って地底の迷路に踏み込んだ蓑浦と道雄は、暗闇の中で幾度も死に瀕しながら、丈五郎が実は道雄の実父ではないこと、秀ちゃんが初代の生き別れの妹・緑であることなど、樋口家をめぐる驚くべき因縁を知る。丈五郎は隠された財宝を目前にして発狂し、蓑浦は九死に一生を得て生還するが、その恐怖のために頭髪は一夜にして真白になっていた。のちに秀ちゃんと結ばれた蓑浦は、彼女とともに莫大な財宝を用いて不具者救済の施設を築く。
登場人物
- 私(蓑浦) 貿易商社勤めの青年。物語の語り手で、初代の恋人
- 木崎初代 蓑浦の恋人。密室状態の自宅で何者かに刺殺される
- 深山木幸吉 風変わりな素人探偵。初代殺しを調べるうち衆人環視の中で殺される
- 諸戸道雄 蓑浦の友人で医学者。同性愛的な想いを寄せながら真相解明に協力する
- 諸戸丈五郎 孤島・岩屋島の主。醜い容貌ゆえに人間を憎み、不具者を製造しては見世物に売る元凶
- 秀ちゃん(緑) 土蔵に幽閉された双生児の娘。実は初代の生き別れの妹で、のちに蓑浦と結ばれる
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 発端──入口のない部屋
- 五 白昼の惨劇と七宝の花瓶
- 六 乃木将軍の秘密と双生児の日記
- 七 孤島・岩屋島へ
- 八 地底の迷路と鬼の正体
- 九 結末──大団円
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
私はまだ三十にもならぬに、濃い髪の毛が、一本も残らず真白になっている。この様な不思議な人間が外にあろうか。嘗て白頭宰相と云われた人にも劣らぬ見事な綿帽子が、若い私の頭上にかぶさっているのだ。私の身の上を知らぬ人は、私に会うと第一に私の頭に不審の目を向ける。無遠慮な人は、挨拶がすむかすまぬに、先ず私の白頭についていぶかしげに質問する。これは男女に拘らず私を悩ます所の質問であるが、その外にもう一つ、私の家内と極く親しい婦人丈けがそっと私に聞きに来る疑問がある。少々無躾に亙るが、それは私の妻の腰の左側の腿の上部の所にある、恐ろしく大きな傷の痕についてである。そこには不規則な円形の、大手術の跡かと見える、むごたらしい赤あざがあるのだ。
「孤島の鬼」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は彼の上京を待って、私の外科病院の院長になってもらう積りで、楽しんでいた所、彼は故郷へ帰って一月もたたぬ間に、病を発してあの世の客となった。凡て凡て好都合に運んだ中で、ただ一事、これ丈けが残念である。彼の父からの死亡通知状に左の一節があった。「道雄は最後の息を引取る間際まで、父の名も母の名も呼ばず、ただあなた様の御手紙を抱きしめ、あなた様のお名前のみ呼び続け申候」
「孤島の鬼」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
私はまだ三十にもならぬに、濃い髪の毛が、一本も残らず真白になっている。この様な不思議な人間が外にあろうか。
江戸川乱歩『孤島の鬼』の「はしがき」の書き出し。三十前にして真っ白になった髪という謎が、これから語られる体験の恐ろしさを予告する。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。