黒死館殺人事件(小栗虫太郎)のあらすじ・登場人物
城館をめぐる知識と推理
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 295,509字
- 読了目安
- 約9時間51分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
小栗虫太郎が1934年(昭和9年)4〜12月の『新青年』に連載した長編探偵小説。降矢木家の城館、通称「黒死館」で毒殺事件が起こり、刑事弁護士の法水麟太郎が捜査に加わる。館には十七歳の当主と、幼い頃から外へ出ずに暮らす異国の弦楽四重奏団がいる。事件を聞いた法水は、現場へ急ぐ前に書物を広げ、支倉検事へ一族の由来を説明し始める。紋章、楽器、宗教、医学などの言葉が、装飾として添えられるだけでなく、人物の解釈や推論を運ぶ材料になっていく。漢字に外国語の読みを重ねるルビや、長く連なる比喩も文章の特徴だ。尖塔を持つ建物、古い工芸品、閉じた家族関係の説明が重なり、事件の背景そのものが大きな読み物となる。捜査の進行とともに、法水が持ち出す知識と、検事らがそれに応じる対話をたどる作品である。
あらすじ
四百年の由緒を誇る神聖家族・降矢木一族が住まう洋館、通称「黒死館」。ボスフォラス以東にただ一つと称されるこの異形の建物で、一族と楽団の人々を襲う連続毒殺事件が幕を開ける。名探偵・法水麟太郎は、支倉検事と熊城捜査局長とともに館に乗り込み、次々と繰り広げられる不可解な死の謎に挑む。館に秘められた血の因縁、暗号、機械仕掛け、そして降矢木家に伝わる呪いの伝説――。法水は、神学・法医学・紋章学・オカルティズム・音楽・暗号学にわたる膨大な知識を縦横に駆使し、めくるめく推理と反証を積み重ねていく。おびただしい引用と衒学の奔流のなかで謎はいよいよ深まり、やがて神聖家族最後の一人へと収斂していく。難解にして絢爛、日本探偵小説の極北と呼ばれる伝説的長編である。
登場人物
- 法水麟太郎 博覧強記の名探偵。あらゆる学問の知識を駆使して黒死館の連続殺人に挑む
- 支倉検事・熊城捜査局長 法水とともに捜査にあたる検事と捜査局長
- 降矢木算哲 黒死館を建てた前当主の医学博士。事件の十月ほど前に謎の自殺を遂げている
- 降矢木旗太郎 算哲の子で現当主。提琴を弾く、まだ十代の早熟な少年
- 紙谷伸子 故算哲の秘書。家族ではないが、事件の最前線に立たされ続ける
- 四人の異国楽人 算哲が乳呑児のうちに連れ帰り、四十余年館外へ出さずに養った弦楽四重奏団
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 黒死館――四百年の血統と、三つの変死
- 五 第一の惨劇――屍光と橄欖冠の創紋
- 六 黙示図と、算哲の死の謎
- 七 第二の惨劇――鎧の中の易介
- 八 鐘鳴器室の伸子と、古代時計室の津多子
- 九 第三の惨劇――宙に吊られたクリヴォフ夫人
- 十 ディグスビイの暗号と、演奏会の闇
- 十一 殯室の湯滝と、ファウスト博士の拇指痕
- 十二 解決――ファウスト博士の正体
- 十三 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
聖アレキセイ寺院の殺人事件に法水が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿としていて、臼杵耶蘇会神学林以来の神聖家族と云われる降矢木の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨が始まったからであった。その、通称黒死館と呼ばれる降矢木の館には、いつか必ずこういう不思議な恐怖が起らずにはいまいと噂されていた。
「黒死館殺人事件」小栗虫太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
こうして、メディチ家の血系、妖妃ビアンカ・カペルロの末裔、神聖家族降矢木の最後の一人紙谷伸子の柩は、フィレンツェの市旗に覆われ、四人の麻布を纏った僧侶の肩に担がれた。そして、湧き起る合唱と香煙の渦の中を、裏庭の墓地をさして運ばれて行ったのである――閉幕。
「黒死館殺人事件」小栗虫太郎(青空文庫)
名文
聖アレキセイ寺院の殺人事件に法水が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿としていて、臼杵耶蘇会神学林以来の神聖家族と云われる降矢木の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨が始まったからであった。
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』の書き出し。聖アレキセイ寺院の事件に続いて、降矢木家の館「黒死館」に毒殺者が現れる。衒学と怪奇の大作の幕開け。
あの一句は、ゲーテの『ファウスト』の中で、尨犬に化けたメフィストの魔力を破ろうと、あの全能博士が唱える呪文の中にある、勿論その時代を風靡した加勒底亜五芒星術の一文で、火精・水精・風精・地精の四妖に呼び掛けているんだ。
現場に残された「水精よ蜿くれ」の一句を、探偵法水麟太郎が読み解く場面。ファウストの呪文が連続殺人の鍵となる、黒死館らしい衒学の極み。
原文を読む
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