銀河鉄道の夜(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
銀河を走る「ほんとうの幸い」探し
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 幻想
- 文字数
- 38,447字
- 読了目安
- 約1時間17分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
宮沢賢治が生前に発表せず、草稿に手を入れ続けた童話。没後の1934年(昭和9年)、文圃堂版『宮沢賢治全集』第三巻に収められた。少年ジョバンニは、病気の母と暮らし、仕事をしながら学校へ通っている。星祭りの夜、友人カムパネルラと乗る不思議な汽車を中心に、町の暮らしと銀河の風景とが一つの物語につながっていく。星座や鉱物、化石といった科学の言葉が、信仰に関わるイメージや少年同士の会話と溶け合う点に特色がある。光や色、音の細やかな描写が宇宙を身近に感じさせる一方、人とともに生きることや「ほんとうの幸い」をめぐる問いも織り込まれている。未定稿をもとに編集されてきた作品で、版によって本文に相違があることも、長く読み継がれてきたこの童話の成り立ちを知る手がかりとなる。
あらすじ
父が漁に出たまま長らく帰らず、病気の母と暮らし、仕事をしながら学校へ通うジョバンニは、学校でも級友からからかわれ、孤独な日々を送っている。カムパネルラも近ごろは彼にあまり話しかけない。星祭りの夜、ジョバンニは母のために牛乳を取りに行ったあと、丘の上でいつしか眠り込み、気づくと銀河を走る不思議な汽車に乗っていた。車内にはカムパネルラの姿もあり、二人は白鳥の停車場、竜の絵図のような黒い穴(石炭袋)、水の中で死んだ姉弟とその家庭教師など、様々な乗客や幻想的な光景に出会いながら、「ほんとうのさいわい」とは何かを語り合う。しかし、サザンクロスの停車場を過ぎたあたりで、カムパネルラの姿は不意に消えてしまう。ひとり丘の上で目を覚ましたジョバンニは、牛乳を受け取り、街へ駆け下りる途中、クラスメートのザネリが川に落ちたのを助けようとしたカムパネルラが、そのまま行方知れずになったことを知らされる。ジョバンニは博士からカムパネルラの捜索が難しいと聞き、牛乳と父の便りを母に届けようと夜道を走っていくのだった。
登場人物
- ジョバンニ 貧しく孤独な少年。銀河鉄道の旅をともにする本作の主人公
- カムパネルラ ジョバンニの親友。旅の途中で姿を消し、現実では川に落ちた友を助けようとして行方が分からなくなる
- ザネリ ジョバンニの同級生。川に落ちたところをカムパネルラに助けられる
- 博士 カムパネルラの父。物語の最後に登場する
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 午后の授業から活版所へ
- 五 ケンタウル祭の夜と天気輪の柱
- 六 銀河ステーション──白鳥の停車場
- 七 鳥を捕る人
- 八 ジョバンニの切符──氷山の姉弟
- 九 蝎の火とサウザンクロス
- 一〇 石炭袋──カムパネルラの消失
- 一一 帰還──橋の上の灯
- 一二 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
「銀河鉄道の夜」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日大へん元気な便りがあったんだが。今日あたりもう着くころなんだが。船が遅れたんだな。ジョバンニさん。あした放課後みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。」そう云いながら博士はまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へじっと眼を送りました。ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいでなんにも云えずに博士の前をはなれて早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思うともう一目散に河原を街の方へ走りました。
「銀河鉄道の夜」宮沢賢治(青空文庫)
名文
けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。
銀河をわたる夜の旅のなかでくり返し問われる、物語の核心にある一句。ほんとうの幸いとは何かを問い続けた宮沢賢治の願いが、この短い問いに凝縮されている。
カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。
銀河の旅の終わり近く、ジョバンニが友に告げる言葉。この直後にカムパネルラの席は空になり、永遠の別れが訪れる。
どうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。
カムパネルラが語る「さそりの火」の祈り。自分の命を他者の幸いのために使ってほしいという願いが、本作の主題をそのまま言い当てる。
僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
さそりの火の話を聞いたジョバンニがカムパネルラに語る決意。自己犠牲を通して「ほんとうのさいわい」を求める、作品の中心にある願い。
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」
作品の書き出し、午後の授業での先生の問いかけ。天の川の正体を問うこの一言から、ジョバンニの銀河をめぐる旅が静かに始まる。
僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。
石炭袋の暗い穴を前にジョバンニが語る誓い。直後にカムパネルラは姿を消し、この言葉はひとり残されたジョバンニの生きる指針となる。
おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、どこまででも行ける筈でさあ、あなた方大したもんですね。
ジョバンニの切符を見た鳥捕りの言葉。「ほんとうの天上へさえ行ける」「どこでも勝手にあるける通行券」という言い方が、ジョバンニの旅の特別さを印象づける。
「そんな神さまうその神さまだい。」 「あなたの神さまうその神さまよ。」 「そうじゃないよ。」 「あなたの神さまってどんな神さまですか。」青年は笑いながら云いました。 「ぼくほんとうはよく知りません、けれどもそんなんでなしにほんとうのたった一人の神さまです。」 「ほんとうの神さまはもちろんたった一人です。」
天上で降りようとする姉弟とジョバンニの言い合い。互いの神を「うその神さま」と言い合う子供らしいやりとりが、「ほんとうの神さま」とは何かという作品の根本の問いへつながっていく。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。