村のストア派(牧野信一)のあらすじ・登場人物
泉水のほとりの、村の哲学者
- 風刺
- 心理
- 文字数
- 18,484字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
1928年(昭和3年)「新潮」に発表された牧野信一の短編。落葉の浮かぶ泉水のほとりで、家財を一つずつ売り払いながら「抽象的観念の実在」などという書物に赤鉛筆を引いている男・樽野を描く。ギリシア趣味と自意識の空回りを軽妙に戯画化した、いわゆる「ギリシャ牧野」の世界の一編であり、村に住む哲学かぶれの男を「ストア派」と呼んでみせる皮肉に、この作者独特の可笑しみと哀感が同居している。
あらすじ
沢山の落葉が浮かんでいる泉水のそばで、樽野は籐椅子にもたれて日向ぼっこをしている。膝の上の分厚い書物が滑り落ちても拾おうともせず、「抽象的観念の実在」という項目の頁を微風に翻させたまま、口をあけて虚空を仰いで眠りこけている。かつて悠々と泳いでいた鯉はすべて売り払われ、泉水は霜枯れ時の運動場のように静かで間の抜けた眺めになった。次は庭木でも売ろうか、あの石灯籠はあってもなくてもよさそうだ——そんな算段を楽しんでいるうちに、彼はすっかり好い心地になって眠ってしまったのである。家産を食いつぶしながら哲学書を読み、村の人々からは変わり者と見られ、それでも当人は少しも痛痒を感じない。妻や友人の林が出入りしては、彼の暮らしぶりに巻きこまれていく。「そんならね、明ちやん、鶏をたのむわ」——威勢よく出かけていく林は、しかし鶏を買いに行くわけではないのだった。
登場人物
- 樽野 家財を売りながら哲学書を読む、村の「ストア派」
- 林 樽野の友人。威勢よく出入りする
- 樽野の妻 夫の暮らしぶりに付き合う
冒頭部(原文より)
一 沢山な落葉が浮んでゐる泉水の傍で樽野は、籐椅子に凭つて日向ぼつこをしてゐた。彼は、あたりのことには関心なく何か楽し気な思ひ出にでも耽つてゐる者のやうに伸々と空を仰いでゐるが、何時の間にか眠り込んでしまつたのかも知れない、膝の上に伏せてあつた部厚な書物が音をたてゝ足許に滑り落ちても拾はうともしないから。
「村のストア派」牧野信一(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そんならね、明ちやん、鶏をたのむわ。」と彼女はシヤツの袖をたくしあげながら叫んだ。 「ようし! そのつもりで出かけるところだツたの、十分で帰つて来るから、支度をして……」と玄関の外で遠ざかりながら、林が威勢のある声を挙げた。附け足すまでもなく林は、鶏を買ひに行くわけではない。
「村のストア派」牧野信一(青空文庫)
原文を読む
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