モノグラム(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
懐中鏡の組合せ文字の謎
- 心理
- 風刺
- 文字数
- 11,034字
- 読了目安
- 約22分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
「新小説」1926年6月号に発表された短編。工場の老守衛が、守衛室のストーブを囲んで語り手に聞かせる思い出話という体裁をとる。浅草公園で偶然出会った初対面の男と、互いに見覚えがあるという奇妙な縁が、昔の恋の記憶をめぐって思わぬ形でほどけていく。題は組み合わせ文字のこと。
あらすじ
工場の老守衛、栗原は、四十すぎで失業していた頃の思い出を語る。ヒステリー持ちの妻のいる家を避けて浅草公園のベンチに座っていると、三十前後の見知らぬ男、田中三良が隣に座り、どこかで会ったと言い出す。二人とも相手に見覚えがあるのに、経歴を照らし合わせてもどこで会ったのか分からない。数日後、田中は下宿を訪ねた栗原に、亡くなった姉、北川すみ子の形見の懐中鏡を見せる。すみ子は栗原が学生時代に片思いをした女性で、鏡の裏には栗原の若い頃の写真が隠され、サックには「I」を「S」で包んだ組み合わせ文字が刺繍されていた。田中は、姉が栗原を思い続けていたのだと言い、栗原は涙ぐむほど喜んで形見をもらい受け、妻をいとわしく思うほど昔の恋の幻影にひたる。しかし、懐中鏡を妻のお園に見つけられて事情が一変する。それは学生時代にお園自身が作り、修学旅行で盗まれた自分の持ち物で、「I」は一造、「S」は園を表していた。写真もお園が入れたもので、すみ子が盗んだらしい。栗原は、二重の失望を味わった自分の話を、落とし話として笑って締めくくる。
登場人物
- 栗原一造 工場の老守衛。思い出話の語り手
- 田中三良 浅草公園で出会う三重県出身の青年
- 北川すみ子 栗原が学生時代に片思いをした女性。田中の姉
- お園 栗原の妻。ヒステリーの持病がある
冒頭部(原文より)
私が、私の勤めていたある工場の老守衛(といっても、まだ五十歳には間のある男なのですが、何となく老人みたいな感じがするのです)栗原さんと心安くなって間もなく、恐らくこれは栗原さんの取って置きの話の種で、彼は誰にでも、そうした打開け話をしても差支のない間柄になると、待兼ねた様に、それを持出すのでありましょうが、私もある晩のこと、守衛室のストーブを囲んで、その栗原さんの妙な経験談を聞かされたのです。 栗原さんは話上手な上に、なかなか小説家でもあるらしく、この小噺めいた経験談にも、どうやら作為の跡が見えぬではありませんが、それならそれとして、やっぱり捨て難い味があり、そうした種類の打開け話としては、私は未だに忘れることの出来ないものの一つなのです。栗原さんの話しっぷりを真似て、次にそれを書いて見ることに致しましょうか。
「モノグラム」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
つまり、私は二重の失望を味わねばならなかったのです。第一にすみ子が決して私などを思ってはいなかったこと、それから、若し家内の想像を誠とすれば、あれ程私が恋いしたっていた彼女が、見かけによらぬ泥坊娘であったこと。 ハハハハハハ、どうも御退屈さま。私の馬鹿馬鹿しい思出話は、これでおしまいです。落ちを云って了えば、此上もなくつまらないことですけれど、それが分るまでには、私も一寸緊張したものですがね。
「モノグラム」江戸川乱歩(青空文庫)
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