一枚の切符(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
乱歩初期の知的ミステリ
- ミステリ
- 文字数
- 13,507字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1923年(大正12年)、「新青年」に発表した短編で、デビュー作「二銭銅貨」に続いて世に出た、乱歩ごく初期の作品である。線路上で轢死体となって発見された大学者の夫人——それは自殺か他殺か。残された一枚の切符を手がかりに、アマチュア探偵・左右田が意外な推理を展開する。だが、その鮮やかな推理そのものへの懐疑をも忍ばせた、知的な一編である。
あらすじ
近来の珍事として世間の噂をさらった事件——ある大学者・富田博士の夫人が、鉄道線路の上で轢死体となって発見された。状況は自殺とも他殺ともつかず、人々の関心を集めていた。カフェで語り手にこの事件を語るのは、身なりは端正なのに髪をもじゃもじゃに伸ばした青年、アマチュア探偵の左右田である。彼は、現場に残された一枚の切符——PL商会の切符——をはじめとする証拠を積み上げて、鮮やかな推理を披露してみせる。だが左右田は、最後に自らの推理を突き放すように語る。自分が並べ立てた証拠は、よく考えればどれも別の解釈が成り立つ曖昧なものばかりで、もし嫌疑者が自分の崇拝する大学者でなかったら、まったく逆の結論——富田博士その人が犯人だという推理——すら組み立てられたかもしれない、と。探偵の「推理」そのもののあやうさに光を当てた、乱歩初期の知的なミステリである。
登場人物
- 左右田 もじゃもじゃ頭のアマチュア探偵
- 富田博士 夫人を亡くした大学者
冒頭部(原文より)
「イヤ、僕も多少は知っているさ。あれは先ず、近来の珍事だったからな。世間はあの噂で持切っている。が、多分君程詳敷くはないんだ。少し話さないか」 一人の青年紳士が、こういって、赤い血の滴る肉の切れを口へ持って行った。 「じゃ、一つ話すかな。オイ、ボーイさん、ビールの御代りだ」
「一枚の切符」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「君、これが分るかい、僕が誠しやかに並べ立てた証拠というのは、よく考えて見ると、悉くそうでない、他の場合をも想像することが出来る様な、曖昧なものばかりだぜ。唯だ一つ確実性を持っているのは、例のPL商会の切符だが、あれだってだ、例えば、問題の石塊の下から拾ったのではなく、その石のそばから拾ったとしたらどうだ」 左右田は、よく呑込めないらしい相手の顔を眺めて、意味ありげにニヤリとした。
「一枚の切符」江戸川乱歩(青空文庫)
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