D坂の殺人事件(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
明智小五郎、初登場の密室事件
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- ミステリ
- 文字数
- 22,074字
- 読了目安
- 約44分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1925年(大正14年)1月増刊の『新青年』に発表された短編探偵小説。のちに乱歩作品を代表する探偵となる明智小五郎が初めて登場する。蒸し暑い晩、D坂のカフェ「白梅軒」にいた語り手の「私」は、知り合いの明智とともに、向かいの古本屋の異変に気づく。人通りのある町で起きた事件をめぐり、通りを見ていた人々の証言や、店と隣家との位置関係が問題になる。表から奥まで見通せそうな日本の家屋を舞台に、誰が何を見たのかを問い直して謎を立ち上げる点に特色がある。「事実」と「推理」の二部に分け、読者も観察と判断を比べながら読み進められる。ここでの明智は豪華な事務所を構えた名探偵ではなく、探偵小説を好む、書生風の変わり者として描かれる。カフェや古本屋の風俗にも、大正期の都市の空気が残る作品である。
あらすじ
職のない「私」は、行きつけの喫茶店・白梅軒で、向かいの古本屋の美しい女房を眺めながら時を過ごすのを日課にしていた。ある蒸し暑い晩、「私」は探偵小説好きの変わり者・明智小五郎とともに、様子のおかしいその古本屋をのぞきに行き、奥の部屋で女房が絞殺されているのを発見する。警察の調べでは、店の出入口はその晩ずっと近所の人々の目に見張られており、犯人がどこから出入りしたのか見当がつかない。「私」をはじめ、通りを見ていた人々の証言を丹念に検討した明智は、見張りの目にはそれぞれ死角となる瞬間があったことを突き止め、真犯人を絞り込んでいく。やがて明智は、同じ長屋に住む蕎麦屋の主人と、被害者である古本屋の女房との間に、互いの性癖から生じた秘密の関係があり、その行き過ぎた末に事件が起きたのだと解き明かす。その推理を裏付けるように、その日の夕刊には、蕎麦屋の主人が自首したという小さな記事が載っていたのだった。
登場人物
- 私 職のない青年。事件の語り手であり、明智小五郎の友人
- 明智小五郎 探偵小説好きの素人探偵。本作で初登場する本作の名探偵
- 古本屋の女房 絞殺された被害者
- 蕎麦屋の主人 同じ長屋に住む犯人
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 導入──白梅軒の窓から
- 五 捜査──消えた犯人
- 六 迷宮入り──夫の涙と帰り道
- 七 推理(一)──「私」の告発
- 八 推理(二)──明智の反証と真相
- 九 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、白梅軒という、行きつけのカフェで、冷しコーヒーを啜っていた。当時私は、学校を出たばかりで、まだこれという職業もなく、下宿屋にゴロゴロして本でも読んでいるか、それに飽ると、当てどもなく散歩に出て、あまり費用のかからぬカフェ廻りをやる位が、毎日の日課だった。この白梅軒というのは、下宿屋から近くもあり、どこへ散歩するにも、必ずその前を通る様な位置にあったので、随って一番よく出入した訳であったが、私という男は悪い癖で、カフェに入るとどうも長尻になる。それも、元来食慾の少い方なので、一つは嚢中の乏しいせいもあってだが、洋食一皿注文するでなく、安いコーヒーを二杯も三杯もお代りして、一時間も二時間もじっとしているのだ。そうかといって、別段、ウエトレスに思召があったり、からかったりする訳ではない。まあ、下宿より何となく派手で、居心地がいいのだろう。私はその晩も、例によって、一杯の冷しコーヒーを十分もかかって飲みながら、いつもの往来に面したテーブルに陣取って、ボンヤリ窓の外を眺めていた。
「D坂の殺人事件」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
そこへ、下の煙草屋のお上さんが、夕刊を持って来た。明智はこれを受取って、社会面を見ていたが、やがて、そっと溜息をついて云った。「アア、とうとう耐え切れなくなったと見えて、自首しましたよ。妙な偶然ですね。丁度その事を話していた時に、こんな報導に接しるとは」私は彼の指さす所を見た。そこには、小さい見出しで、十行許り、蕎麦屋の主人の自首した旨が記されてあった。
「D坂の殺人事件」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、白梅軒という、行きつけのカフェで、冷しコーヒーを啜っていた。
名探偵・明智小五郎が初めて姿を見せる作品の冒頭。蒸し暑い夜のカフェから、日本の探偵小説を代表する探偵と語り手の物語が始まる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。