二銭銅貨(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
一枚の銅貨から始まる謎
- ミステリ
- 文字数
- 17,136字
- 読了目安
- 約34分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1923年(大正12年)4月の『新青年』に掲載された、江戸川乱歩のデビュー作。貧しい下駄屋の二階に同居する「私」と松村武は、暮らしに行き詰まり、世間を騒がせた大泥棒をうらやむほどになっている。盗まれた大金の行方がわからないという新聞沙汰と、身近な一枚の二銭銅貨とを結びつけて、物語は謎を組み立てていく。頭脳に自信を持つ青年たちの会話や、語り手が相手の様子を観察する文章に、知恵を競う楽しさと貧乏暮らしの切実さが同居する。暗号を扱う探偵小説だが、考案された謎だけでなく、東京の場末の部屋、質入れや飯屋といった生活の細部にも手触りがある。日本の日常を舞台に論理的な謎解きを展開する乱歩の出発点であり、後年の明智小五郎ものとは異なる、二人の青年を中心とした短編である。
あらすじ
場末の下駄屋の二階に間借りする貧しい青年「私」と松村武は、日々の暮らしにも事欠くほど困窮している。かつて電機会社の給料強奪事件を起こした紳士盗賊が捕らわれたものの、奪った五万円の行方は杳として知れないままだった。ある日、松村は「私」の机の上にあった一枚の二銭銅貨に目を留め、その出所を問いただす。その銅貨は中が空洞になった容器で、点字を応用した暗号文が仕込まれていた。松村は、賊が仲間に金のありかを知らせるものだと考える。松村は按摩を呼んで点字の知識を借りながら暗号を解読する。玩具の札を受け取れという文面から、泥棒が本物の金と玩具をすり替えたと推理し、印刷屋へ出かける。しかし「私」は、その解読文に別の言葉が隠されていると指摘する。松村が持ち帰った包みを開くと、中にあったのは本物ではなく玩具の札束だった。すべては、互いの頭脳を競い合っていた「私」が松村を担いだ、手の込んだ悪戯にすぎなかったのである。
登場人物
- 私 貧しい青年。友人の松村を相手に手の込んだ悪戯を仕掛ける本作の語り手
- 松村武 「私」の友人。二銭銅貨の暗号解読に挑む
冒頭部(原文より)
「あの泥坊が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫していた。場末の貧弱な下駄屋の二階の、ただ一間しかない六畳に、一閑張りの破れ机を二つ並べて、松村武とこの私とが、変な空想ばかり逞しゅうして、ゴロゴロしていた頃のお話である。
「二銭銅貨」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
ただ、このお芝居で、私の最も危んだのは、これらのドラマチックな方面ではなくて、最も現実的な併し全体から見ては極めて些細な、少し滑稽味を帯びた、一つの点であった。それは、私が見た所のあの玩具の札が、松村が受取りに行くまで、配達されないで、印刷屋に残っているかどうかということであった。玩具の代金については、私は少しも心配しなかった。私の親戚と大黒屋とは延取引であったし、其上もっといい事は、正直堂が極めて原始的な、ルーズな商売のやり方をして居ったことで、松村は別段、大黒屋の主人の受取証を持参しないでも失敗する筈はなかったからである。最後に、彼のトリックの出発点となった二銭銅貨については、私は茲に詳しい説明を避けねばならぬことを遺憾に思う。若し、私がへまなことを書いては、後日、あの品を私に呉れたある人が、飛んだ迷惑を蒙るかも知れないからである。読者は、私が偶然それを所持していたと思って下さればよいのである。
「二銭銅貨」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
「あの泥坊が羨しい」二人の間にこんな言葉が交される程、其頃は窮迫していた。
日本の本格探偵小説の出発点とされる作品の書き出し。貧しさの嘆きから始まった会話が、暗号をめぐる知恵くらべへと転がっていく。
原文を読む
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