恐ろしき錯誤(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
取り違えと偶然の連鎖
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 23,075字
- 読了目安
- 約46分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1923年(大正12年)、「新青年」に発表した初期短編。「勝ったぞ」という思いだけを頭に旋回させ、往来を異様な足取りで歩く男・北川氏。その背後には、一通の手紙と、取り違えられた金メダルをめぐる偶然の連鎖があった。乱歩がみずから「脳髄の盲点」と呼んだ、人間心理のあやうさを突いた一編である。
あらすじ
「勝ったぞ、勝ったぞ……」——北川氏の頭の中では、勝ったという意識だけが風車のように旋回し、彼は自分がどこを歩いているのかも分からぬまま、往来を異様な足取りでさまよっていた。彼を発狂へと追いやったものは何だったのか。物語は、その恐るべき「錯誤」の連鎖をさかのぼって明かしていく。事の発端は、一通の手紙と、それに同封された金メダルだった。手紙の追伸には、同封のメダルに貼られた写真の人物こそ恐るべき殺人者だと聞くが、日ごろ親しく往来している彼がそんな極悪人とは信じがたい、と記されていた。ところが、そのメダルに挟まれていた写真は、手違いによって、本来とは別人のものにすり替わっていた——。この取り違えが、当人の思いもよらぬ疑心暗鬼を呼び、平生「脳髄の盲点」を口癖にしていた北川氏を、発狂の淵へと突き落とす。この手紙が真意だったのか、それとも手違いに乗じた機智だったのかは、当人だけが知る永久の秘密だった。人間の心のあやうさと偶然の恐ろしさを描いた、乱歩初期の一編である。
冒頭部(原文より)
「勝ったぞ、勝ったぞ、勝ったぞ……」 北川氏の頭の中には、勝ったという意識だけが、風車の様に旋転していた。他のことは何も思わなかった。 彼は今、どこを歩いているのやら、どこへ行こうとしているのやら、まるで知らなかった。第一、歩いているという、そのことすらも意識しなかった。
「恐ろしき錯誤」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
この手紙が野本氏の真意であったか、それとも、メダルの間違に乗じた彼の機智であったか、それは野本氏自身の外は誰れにも分らぬ永久の秘密だった。 かくして、北川氏の発狂の直接の動機となったものは、何と恐ろしい因縁ではないか。彼が平生口癖の様にしていた、所謂「脳髄の盲点」の作用だったのである。
「恐ろしき錯誤」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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