影(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
映画の中の影を見た
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 10,315字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
芥川龍之介の短編。横浜の貿易商・陳彩のもとへ、妻の貞操を疑わせる匿名の手紙が届く。場面は横浜と鎌倉を交互に切り替えながら進み、嫉妬に追い詰められる陳と、見えない視線に怯える妻・房子の姿を映画のように並べていく。結末で、物語全体の位置づけが明かされる。「改造」1920(大正9)年9月号に発表。
あらすじ
横浜の貿易会社「日華洋行」の主人・陳彩のもとへ、貴下の夫人は貞操を守っていないという匿名の手紙が届く。同種の手紙は初めてではなく、陳は新婚のころ、妻の房子が男たちから贈られた品を見せて笑ったことを思い出す。陳は里見探偵事務所に妻の監視を頼み、東京へ出張すると妻に告げて家を空ける。鎌倉の自宅では、房子が誰かに見られている気がして怯えており、横浜の会社では書記の今西が房子の写真を眺めたあと、陳に届けたのと同じ文面の手紙をタイプしている。終列車で鎌倉に戻った陳は、裏門のほうへ忍ぶ靴音を聞き、二階の寝室に灯がともるのを見る。戸の鍵穴から寝室をのぞいた陳が目にしたのは、呪わしい光景だった。寝室では、房子だった「物」の上に伏す陳彩と、それを部屋の隅から見つめるもう一人の陳彩の姿があった。画面が消えると、語り手の「私」は、女と並んで映画館の席に座っている。
冒頭部(原文より)
横浜。 日華洋行の主人陳彩は、机に背広の両肘を凭せて、火の消えた葉巻を啣えたまま、今日も堆い商用書類に、繁忙な眼を曝していた。
「影」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
突然『影』の映画が消えた時、私は一人の女と一しょに、ある活動写真館のボックスの椅子に坐っていた。 「今の写真はもうすんだのかしら。」 女は憂鬱な眼を私に向けた。それが私には『影』の中の房子の眼を思い出させた。 「どの写真?」 「今のさ。『影』と云うのだろう。」 女は無言のまま、膝の上のプログラムを私に渡してくれた。が、それにはどこを探しても、『影』と云う標題は見当らなかった。 「するとおれは夢を見ていたのかな。それにしても眠った覚えのないのは妙じゃないか。おまけにその『影』と云うのが妙な写真でね。――」 私は手短かに『影』の梗概を話した。 「その写真なら、私も見た事があるわ。」 私が話し終った時、女は寂しい眼の底に微笑の色を動かしながら、ほとんど聞えないようにこう返事をした。 「お互に『影』なんぞは、気にしないようにしましょうね。
「影」芥川龍之介(青空文庫)
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