赤い部屋(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
九十九人を死なせた男の告白
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 18,114字
- 読了目安
- 約36分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「新青年」に発表した短編小説。異常な刺激を求めて集う「赤い部屋」の会で、新入りのT氏が、これまでに九十九人もの人間を間接的に死なせてきたと語りはじめる。発覚しようのない手口を一つずつ明かしていく語りは、蝋燭の灯と緋色の幕に彩られた妖しい場の雰囲気と相まって読者を引き込む。倦怠と刺激への渇望をテーマに、乱歩初期の短編のなかでも語りの妙で知られる一編である。
あらすじ
異常な刺激を求めて集う七人の男たちの秘密の集まり「赤い部屋」。緋色の垂れ絹と蝋燭に彩られたその一室で、新入りのT氏が語り出したのは、身の毛のよだつ告白だった。あらゆる娯楽に飽き果てて生の退屈にあえいでいたT氏は、あるとき偶然から、人を自分の手で直接殺めることなく死に至らしめる方法に思い至る。道を尋ねる者にわざと危険なほうを教え、井戸や薬に細工をし、暗示をかける――そうした巧妙で決して罪に問われようのない手口によって、彼はこれまで九十九人もの人間を「殺して」きたのだと言う。退屈しのぎの遊戯として重ねられた見えざる殺人の数々に、一同は息を呑んで戦慄する。そしてT氏は給仕女に向けて拳銃を撃つが、女にけがはない。今度は女がT氏を撃ち、彼は血を流して倒れる。だが――それは二人の芝居だった。弾丸は赤インキを詰めた偽物、殺人譚も一から十まで、退屈な男たちを驚かすために仕組まれた作りごとだった。電燈が煌々と灯れば、夢幻の「赤い部屋」はみすぼらしい手品の種をさらすばかり。倦怠と刺激への渇望をテーマに、乱歩が語りの妙と鮮やかな逆転で読ませる、初期の代表的短編である。
登場人物
- T氏 「赤い部屋」の新入りの語り手。退屈しのぎに九十九人を間接的に死なせてきたと告白するが、実はすべて作りごとだった
- 私 T氏の告白を聞く七人のうちの一人。異常な刺激を求めて集う会員
- 給仕女 百人目としてT氏に撃たれる女。だがそれもまた仕組まれた芝居だった
冒頭部(原文より)
異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々其為にしつらえた「赤い部屋」の、緋色の天鵞絨で張った深い肘掛椅子に凭れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待構えていた。
「赤い部屋」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
彼がこう種明しをしている間に、今まで彼の助手を勤めた給仕女の気転で階下のスイッチがひねられたのであろう、突如真昼の様な電燈の光が、私達の目を眩惑させた。そして、その白く明るい光線は、忽ちにして、部屋の中に漂っていた、あの夢幻的な空気を一掃してしまった。そこには、曝露された手品の種が、醜いむくろを曝していた。緋色の垂絹にしろ、緋色の絨氈にしろ、同じ卓子掛けや肘掛椅子、はては、あのよしありげな銀の燭台までが、何とみすぼらしく見えたことよ。「赤い部屋」の中には、どこの隅を探して見ても、最早や、夢も幻も、影さえ止めていないのだった。
「赤い部屋」江戸川乱歩(青空文庫)
名文
異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々其為にしつらえた「赤い部屋」の、緋色の天鵞絨で張った深い肘掛椅子に凭れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待構えていた。
物語の書き出し。退屈をまぎらす刺激を求める七人の男が、緋色に塗り込められた部屋で怪異な物語に耳を傾ける。舞台装置の妖しさが一文で立ち上がる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。