恋愛曲線(小酒井不木)のあらすじ・登場人物
書簡体で綴る戦慄の恋愛実験
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 13,515字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
医学者にして探偵作家・小酒井不木が、1926年(大正15年)、雑誌「新青年」に発表した書簡体の探偵小説。失恋した貧しい医学者が、かつて愛した女性・雪江を金の力で奪って結婚する百万長者の青年「A君」に宛て、「恋愛曲線」なる奇妙な記念品を贈ると告げる一通の手紙。それは、心臓の鼓動を曲線に描く「電気心働計」を用いた、恐るべき実験の記録だった——。冷徹な科学の装いのもとに、狂気じみた愛の執念を描き出す。日本探偵小説の黎明期を代表する、戦慄の一編である。
あらすじ
「親愛なるA君!」——一通の手紙は、そう書き起こされる。差出人は貧しい一介の医学者。宛先の「A君」は、明日結婚式を挙げる百万長者の長男である。医学者は、A君の花嫁・雪江こそ、かつて自分が愛しながら、A君の金力の前に奪われた女性であることを打ち明ける。だが手紙は恨みつらみを述べるのではなく、二人の永遠の幸福を祝し、「恋愛曲線」という世にも珍しい記念品を贈りたい、と慇懃に語りかける。恋愛曲線とは何か。医学者は、失恋の痛手を研究に埋めてきた自らの半生を語りながら、心臓の鼓動を曲線として記録する「電気心働計」の原理を、くどくどと説明していく。そして手紙の末尾で、その正体が明かされる。彼は、自分のもとへ走ってきた雪江とともに、密室で最期の実験を行っているのだった。電気心働計につながれた雪江の心臓の鼓動と、みずからの全身の血を注ぎ尽くしていく自分——血が尽き、彼が倒れれば、装置は雪江の心臓の停止をも記録する。「これが恋愛の極致でなくて何であろう」。愛する女とともに死へ向かう狂気の実験を、冷徹な科学の言葉で綴った、書簡体ミステリの傑作である。
登場人物
- 僕 失恋した貧しい医学者。手紙の書き手
- A君 雪江と結婚する百万長者の長男
- 雪江 僕がかつて愛した女性
冒頭部(原文より)
親愛なるA君! 君の一代の盛典を祝するために、僕は今、僕の心からなる記念品として、「恋愛曲線」なるものを送ろうとして居る。かような贈り物は、結婚の際は勿論のこと、その他は如何なる場合に於ても、日本は愚か、支那でも、西洋でも、否、世界開闢以来、未だ曾て何人によっても試みられなかったであろうと、僕は大に得意を感ぜざるを得ない。
「恋愛曲線」小酒井不木(青空文庫)
末尾部(原文より)
君は最早、僕に心臓を提供した女が何人であるかを推知して居るであろう。僕は今無限の喜びを感じて居る。自分で曲線を見ることこそ出来ぬが、真の恋愛曲線の出来つゝあることを僕はかたく信じて疑わない。僕の血が尽きたときは彼女の心臓は停止するのだ。これが恋愛の極致でなくて何であろう。 ……おや、僕の血が少くなったと見え、彼女の心臓は今、まさに停止しようとして居る。君! 君との、愛なき金力結婚を厭い、彼女の真の恋人だった僕のところへ走って来た雪江さんの心臓は今、まさに停止しようとしている……
「恋愛曲線」小酒井不木(青空文庫)
原文を読む
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