アプリで読む

無料・登録不要

人間椅子(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

書斎に届いた見知らぬ告白

  • ミステリ
  • 怪奇

江戸川乱歩 1925年(大正14年)9月 「苦楽」

文字数
14,920字
読了目安
約30分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1925年(大正14年)の『苦楽』10月号に発表された江戸川乱歩の短編小説。作家の佳子が、執筆にかかる前に読者からの郵便に目を通すと、表題も署名もない原稿用紙の束が交じっている。それは「奥様」への呼びかけで始まる、見知らぬ男の告白だった。家具作りを仕事とする男の身の上が、丁寧で執拗な手紙の言葉によって語られていく。怪異を遠い世界の出来事として示すのではなく、書斎や家具といった身近なものの感触に結びつけている点に特色がある。目で確かめられないものを、重さや温度、音を通して想像させる描写が、日常の空間に不安を生む。手紙を読む佳子の場面と、その内側にある男の語りとが重なる構成にも注目したい。人に見られる姿と自分自身への思いの隔たりを、不気味な身体感覚とともに描く作品である。

あらすじ

美しい閨秀作家として名高い佳子のもとに、ある日、未知の男から長い手紙が届く。手紙には、醜い容貌を苦にして世を拗ねた椅子職人が、腕によりをかけて誂えた豪奢な安楽椅子の内部をくり抜き、その中に身を潜めて暮らし始めたといういきさつが綴られていた。椅子に座る人々の重みや温もりを、姿を見せぬまま味わう倒錯した悦びに耽っていた男は、やがて椅子がホテルから売り払われ、男は中に潜んだまま、佳子の夫のもとへ運ばれる。姿なき同居人として佳子のそばで暮らすうち、次第に募る想いを抑えきれなくなった男は、椅子から抜け出して自分の思いを手紙に書いたと告白する。恐怖のあまり自分の椅子を見つめる佳子のもとへ、続いてもう一通の手紙が届く。それは、先の手紙が投稿された小説の原稿であり、表題を「人間椅子」とつけたいという、一人の投稿者からの至って事務的な手紙であった。

登場人物

冒頭部(原文より)

佳子は、毎朝、夫の登庁を見送って了うと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ籠るのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。今朝とても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先ず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。

「人間椅子」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

突然御手紙を差上げます無躾を、幾重にもお許し下さいまし。私は日頃、先生のお作を愛読しているものでございます。別封お送り致しましたのは、私の拙い創作でございます。御一覧の上、御批評が頂けますれば、此上の幸はございません。ある理由の為に、原稿の方は、この手紙を書きます前に投函致しましたから、已に御覧済みかと拝察致します。如何でございましたでしょうか。若し、拙作がいくらかでも、先生に感銘を与え得たとしますれば、こんな嬉しいことはないのでございますが。原稿には、態と省いて置きましたが、表題は「人間椅子」とつけたい考えでございます。では、失礼を顧みず、お願いまで。匆々。

「人間椅子」江戸川乱歩(青空文庫)

名文

椅子の中に人間が隠れていようなどと、そんな馬鹿馬鹿しいことを、誰が想像致しましょう。

椅子の内部に住みついたと告白する手紙の一節。日常の家具に潜む異常を描き、乱歩の代名詞となった短編。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品