あやかしの鼓(夢野久作)のあらすじ・登場人物
不幸を呼ぶと伝わる鼓
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 38,495字
- 読了目安
- 約1時間17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
夢野久作が1926年(大正15年)、「新青年」の懸賞に入選して文壇に登場した、記念すべきデビュー作。「あやかし」とは、綾になった木目を持つ赤樫で作られたこの鼓の胴に由来し、同時に能楽でいう「妖怪」の意にも通じる。持ち主に次々と不幸をもたらすと伝えられる「あやかしの鼓」と、その因縁に連なる「私」の告白を、遺書の形で綴った、怪奇と幻想にみちた変格探偵小説である。
あらすじ
「あやかしの鼓」――それは、綾になった木目を持つ赤樫で作られた、百年ほど前のものらしい古い鼓である。ふつうの鼓の明るい音とはまるで違う、陰気で余韻のない「ポ……ポ……ポ……」という不気味な音を立てるこの鼓には、持ち主に次々と不幸と死をもたらすという、恐ろしい因縁がまつわりついていた。この鼓と、その血統に連なる「私」は、みずからの周囲で起こる怪しい死の数々をたどるうちに、どう考えても自分こそが、逃れようのない「犯人」であることに気づいてしまう。だが、鼓が犯人だなどと言っても、いったい誰が信じてくれるだろう。世の中とはこんなにも奇妙なものかと思いながら、「私」は、事の顛末を綴った長い遺書を書き上げる。祖先・音丸久能の怨みは、すでに晴らされている。この呪いの脱け殻のような鼓と、その血統を、今日を限りにこの世から消し去るために――「私」は、これから鼓を打ち砕いて死のうと思うのだ。ただ一片の因縁話を残すために生まれてきたのかと、夢のような心地を抱きながら。怪奇と幻想、そして数奇な因縁譚を、久作が独特の陰々たる筆致で綴った、変格探偵小説のデビュー作である。
登場人物
- 私 「あやかしの鼓」の因縁の血を引く者。みずからを逃れようのない犯人と悟り、鼓を打ち砕いて死のうと遺書を綴る
- あやかしの鼓 赤樫で作られた、持ち主に次々と死をもたらす呪われた鼓
- 音丸久能 「私」の祖先。その怨みが鼓にまつわる因縁の源となる
冒頭部(原文より)
私は嬉しい。「あやかしの鼓」の由来を書いていい時機が来たから……。 私は今、この一室で、あやかしの鼓を眼の前に置いている。この鼓が私を今日の私にしてしまったのだ。この鼓の因縁を書き終えたら、私はこの鼓を打ち砕いて、そうして私も死のうと思う。
「あやかしの鼓」夢野久作(青空文庫)
末尾部(原文より)
これを読んでしまった時、私はどう考えても免れようのない犯人であることに気が付いた。しかし鼓が犯人だといって、誰が信じてくれよう。世の中はこんなにも妙なものかと思うと、私は夢を見ているような気持ちになる。 私はこれから、この鼓を打ち砕いて死のうと思う。あやかしの鼓と、その血統を、今日限りこの世から消してしまうために……。
「あやかしの鼓」夢野久作(青空文庫)
原文を読む
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