創作人物の名前について(夢野久作)のあらすじ・登場人物
名前ひとつで、筋まで変わる
- ミステリ
- 文字数
- 6,229字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
小説の登場人物に、どう名前をつけるか。「金色夜叉」の妙味は貫一・お宮の対照にある、と夢野久作は言う。探偵小説の書き手が、選名の苦心と、そこに課された四つの条件を、なかば愚痴まじりに語った随筆。
あらすじ
小説を書く者は誰でも経験することだ、と夢野久作は書き出す。作中人物が決まるのと名前が決まるのは、ほとんど同時である。ところがその選名がなかなか容易でない。極端に神経過敏になってくると、作品の出来不出来は名前の選び方一つにあるとさえ思えてくる。「金色夜叉」の妙味は貫一・お宮の対照にあり、「不如帰」の生命は川島武夫と片岡浪子の八字によって永遠に生きているのではないか——と。特に探偵小説では主人公の名が大きい。明智小五郎、帆村荘六、シャアロック・ホルムズ……名前が紙面に顔を出すだけで読者の血が湧く。久作はここから四つの条件を挙げる。人物の性格や風采にぴたりと合うこと。苗字か名前だけでも姿が浮かぶこと。読者に記憶されやすいこと。そして、実在の名前を悪役に使うと日本中の同姓の人に申し訳が立たないということ。字引や博物字典を開いてはジャガイモやバクテリヤに行き当たり、二時間を空費する自嘲もまじる。それでいて、いい加減につけた名前が十四五枚も書くうちに人物と離れがたくなり、改名させると全体を書き直す羽目になる——作者は名前から受ける感じで筋を運んでいるらしい、という発見でこの一文は結ばれる。
冒頭部(原文より)
これは探偵小説に限らない。小説を書く人は誰でも経験するところであろう。 如何なる作家の場合でも小説の中の主人公や相手役、端役の人物が決定するのと、その人物の名前が決定するのは殆んど同時ではあるまいかと思う。
「創作人物の名前について」夢野久作(青空文庫)
末尾部(原文より)
まことに辻褄の合わない事ばかり並べ立てたようであるが、今までの小説評に、名前の附け方の評なぞ出ないようである。しかも考えようによっては、創作人物の名前の附け方というものは、たしかに一つの立派な芸術のように思われるから、ちょっとその口開きまでにコンナ愚文を発表してみた。
「創作人物の名前について」夢野久作(青空文庫)
原文を読む
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