半七捕物帳 むらさき鯉(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
夜ふけに鯉を返せと来た女
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 16,776字
- 読了目安
- 約34分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。秋雨の宵に怪談をせがまれた半七老人が、明治には夜桜の名所となった小石川・牛込の江戸川が、江戸時代には殺生禁断の御留川で、頭から尾鰭まで紫色の「むらさき鯉」が棲むと評判だったことから語り起こす。文久三年の五月雨のころ、牛込無量寺門前の草履屋に夜ふけ、髪を濡らした見知らぬ女が訪れ、紫の衣の男が命乞いをする夢を見たと言って、台所に隠した鯉を見せてくれと迫る。禁漁の鯉をめぐる怪談めいた出来事の連なりを、江戸末期の世相とともに描く一話。
あらすじ
文久三年五月、牛込の草履屋藤吉の女房お徳のもとに、夜ふけ、髪を濡らした痩せた女が訪ねてくる。紫の衣の男が夢で命乞いをし、枕もとに紫の鱗が落ちていたと語る女に、お徳はおびえて、夫が御留川の江戸川で夜釣りした禁断のむらさき鯉を渡してしまう。やがて帰った藤吉は、釣り仲間の紙屋越前屋の為さんが大鯉に川へ引き込まれたと青ざめ、お徳に急かされて越前屋へ知らせに出たまま戻らない。ところが為さんは無事に家で寝ており、翌朝、藤吉の水死体がどんど橋の下に浮かぶ。為さんは夜釣りなど知らないと言い張り、八丁堀の頼みで半七が乗り出す。半七は、藤吉の鯉が仕出し屋川春の主人宇三郎の手で贅沢な客に売られていたことを突き止め、料理番の富蔵を締め上げる。鯉を持ち去った女は、銀座役人高山の囲い者で元踊りの師匠のお糸だった。富蔵との密会で鯉のありかを聞いていた彼女は、旦那の酒席で鯉を取ってくると請け合い、怪談仕立ての芝居でまんまと鯉をせしめたのである。藤吉は値上げをめぐって富蔵ともみ合い、相手を絞め殺したと思い込んで逃げ回り、嘘で取り繕っていた。様子をうかがいに川春へ忍んだところを宇三郎に見とがめられ、追われて井戸に落ちて死に、死骸は江戸川へ捨てられたのだった。為さんの名は、藤吉が女遊びを隠すために使っていただけだった。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。御留川で上がった水死人の一件を八丁堀から頼まれる
- 藤吉 牛込無量寺門前の草履屋。禁断のむらさき鯉を夜釣りしている
- お徳 藤吉の女房。夜ふけに訪れた怪しい女に鯉を渡してしまう
- 為次郎 町内の紙屋越前屋の亭主。藤吉の釣り仲間
- 宇三郎 仕出し屋川春の主人。叩き上げの頑丈な老人
- お糸 銀座役人高山の囲い者。もとは踊りの師匠
冒頭部(原文より)
「むかし者のお話はとかく前置きが長いので、今の若い方たちには小焦れったいかも知れませんが、話す方の身になると、やはり詳しく説明してかからないと何だか自分の気が済まないというわけですから、何も因果、まあ我慢してお聴きください」 半七老人は例の調子で笑いながら話し出した。それは明治三十一年の十月、秋の雨が昼間からさびしく降りつづいて、かつてこの老人から聴かされた「津の国屋」の怪談が思い出されるような宵のことであった。今夜のような晩には又なにか怪談を聴かしてくれませんかと、私がいつもの通りに無遠慮に強請りはじめると、老人はすこしく首をひねって考えた後に、面白いか面白くないか知りませんけれども、まあ、こんな話はどうでしょうね、とおもむろに口を切った。
「半七捕物帳 むらさき鯉」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
川春の宇三郎は死罪、富蔵は吟味中に牢死、出前持ちふたりは追放だとおぼえています。宇三郎の白状で、鯉を食った者はみんな判っているんですが、身分のある人は迂濶に詮議も出来ず、大町人は金を使って内々に運動したのでしょう、その方の詮議はすべて有耶無耶になってしまいました。高山もお糸も無事でしたが、この一件から富蔵との秘密がばれたらしく、お糸は旦那の手が切れて何処へか立ち去ったようでした」
「半七捕物帳 むらさき鯉」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
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