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玉藻の前(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

妖狐と知りつつ恋い慕う

  • 幻想
  • 歴史
  • 恋愛

岡本綺堂 

文字数
130,707字
読了目安
約4時間21分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府
  • 栃木県

この作品について

岡本綺堂が、謡曲や人形浄瑠璃の「殺生石」などで知られる金毛九尾の狐の伝説を下敷きに書いた長編伝奇小説。舞台は保元・平治の乱を目前にした平安時代末期の京。山科に住む烏帽子折りの少年・千枝松と、幼なじみの美しい娘・藻との淡い恋から物語は始まる。十三夜の前夜、藻がひとりで清水参りに出たまま姿を消し、千枝松は塚の祟りがささやかれる杉の森の奥へ彼女を捜しに行く。関白藤原忠通と弟の頼長の対立、学者の信西入道、陰陽師の安倍泰親といった歴史上の人物を配し、宮廷の権力争いと妖異の物語とを絡み合わせる。魔性と知りながら思いを断ち切れない男の哀しい恋を軸に、天竺や唐土にまでさかのぼる妖狐の伝説を、雅びな王朝の言葉と怪談の筆致で描いた作品で、「半七捕物帳」とはひと味違う綺堂の世界を味わえる。

あらすじ

平安時代の末、山科に住む烏帽子折りの少年・千枝松は、行綱の娘で、美しく孝行な藻と、毎晩連れ立って清水に参っていた。十三夜の前夜、藻がひとりで出かけたまま姿を消し、千枝松は陶器師の翁とともに、塚の祟りで人の近寄らない杉の森の奥で、古い髑髏を枕に眠る藻を見つける。その夜、千枝松は、天竺の華陽夫人や唐土の后となって国を乱した妖女が、藻と同じ顔をしている恐ろしい夢を見る。やがて藻は関白藤原忠通の屋形に召され、「玉藻」と名を改めて寵愛を受け、その美貌と才知で宮中に名を高めていった。藻を失った千枝松は、安倍晴明の子孫で陰陽師の播磨守泰親に弟子入りし、千枝太郎泰清と名のる。泰親は玉藻を魔性の者と見抜き、忠通と対立する弟の左大臣頼長や信西入道とともに、その正体を暴こうとする。玉藻のまわりでは怪事が相次ぎ、彼女に心を寄せた若い公卿たちは怪しい最期を遂げ、玉藻に魅せられた法性寺の高僧も狂い死にする。日照りの雨乞いで泰親の祈祷が失敗し、玉藻の祈りで雨が降ると、玉藻の名声はいよいよ高まった。千枝太郎は師への忠義と玉藻への思慕のはざまで苦しみ、上洛した三浦介の孫娘・衣笠に心を移しかけ、その衣笠も夜ごと怪しい上臈に脅かされる。ついに泰親は山科の古塚を祈り裂き、中から出た黒髪を焼く。その夜、関白の屋形の歌会で玉藻は苦しみ悶え、妖しい光とともに姿を消した。のちに那須野で金毛九尾の狐が三浦介・上総介に射倒されて石と化し、近づく者の命を奪う殺生石となったと聞いた千枝太郎は、師のもとを抜け出して那須野を訪ねる。霜夜の殺生石の前に現れた玉藻の幻に、魔道へでも地獄へでも共に行くと誓った千枝太郎は、数日後、石を枕に微笑んで息絶えているのを見つけられた。玉藻を滅ぼした頼長や信西は、その後の保元・平治の乱で無残に亡びていった。

登場人物

冒頭部(原文より)

「ほう、よい月じゃ。まるで白銀の鏡を磨ぎすましたような」  あらん限りの感嘆のことばを、昔から言いふるしたこの一句に言い尽くしたというように、男は晴れやかな眉をあげて、あしたは十三夜という九月なかばのあざやかな月を仰いだ。男は今夜の齢よりも三つばかりも余計に指を折ったらしい年頃で、まだ一人前の男のかずには入らない少年であった。彼はむろん烏帽子をかぶっていなかった。黒い髪をむすんでうしろに垂れて、浅黄無地に大小の巴を染め出した麻の筒袖に、土器色の短い切袴をはいていた。夜目にはその着ている物の色目もはっきりとは知れなかったが、筒袖も袴も洗いざらしのように色がさめて、袴の裾は皺だらけに巻くれあがっていた。

「玉藻の前」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

 玉藻のかたきは、こうしてみなむごたらしく亡ぼされてしまった。忠通は法性寺にかくれて剃髪した。泰親だけは無事に子孫繁昌した。  那須野の殺生石が玄翁和尚の一喝によって砕かれたのは、それから百年の後であったと伝えられている。

「玉藻の前」岡本綺堂(青空文庫)

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