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悪因縁の怨(江見水蔭)のあらすじ・登場人物

海賊の娘と旗本の若殿

  • 恋愛
  • 歴史

江見水蔭 

文字数
13,705字
読了目安
約27分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都
  • 神奈川県

この作品について

天保の頃、羽田の弁天の茶店で涼んでいた旗本の若殿は、供の俳諧宗匠と中間とともに、評判の美しい女船頭の船で六郷川を川崎へ遡る。蘆の茂る川の上で若殿と娘の距離が縮まるうち、二人の身分と生い立ちが思わぬ障りとなっていく。江戸の風俗や地理を軽妙に語る、天保の世話物風の短編。茶店の女房や宗匠、中間の掛け合いも賑やかで、笑いのなかに、時代の身分の壁がのぞく。

あらすじ

天保の頃、羽田の弁天の茶店で涼んでいた二千八百石の旗本の若殿・六浦琴之丞は、供の俳諧宗匠・一水舎半丘、中間の市助とともに、弁天様より美しいと評判の女船頭お玉の船で川崎へ向かう。お玉に心を奪われた琴之丞は、宗匠らが眠る間に腰元奉公に来ぬかと誘い、大師河原では腹痛と偽って二人を代参に出し、蘆の茂る中洲の奥へ船を入れる。折からの大夕立の後、二人が戻ると琴之丞は帆屋根の下から出てくる。やがて琴之丞もお玉も恋煩いで床につき、半丘は茶店の嬶に十両を握らせてお玉の素姓を探る。癩病の血筋ではなかったが、お玉は名代の海賊・竜神松五郎の娘で、松五郎を追い詰めて自滅させたのは琴之丞の亡き父、浦賀奉行・六浦和泉守友純だった。親の敵同士と知らされ、物陰で聞いていたお玉は泣いて走り去る。落胆する琴之丞を見かねた市助は、お玉は松五郎の実子ではないという作り話を羽田の老爺に語らせる策を考え、茶店の嬶に持ちかける。ところが嬶が老爺を呼びに行った間に、お玉は血を吐いて死んでいた。墓は長照寺に建てられ、琴之丞も一度墓参したのち吐血して死に、六浦家は断絶する。肺病の感染かどうかは分からず、悪因縁の怨は今も蘆の仰々子が語り伝えているという。

登場人物

冒頭部(原文より)

天保銭の出来た時代と今と比べると、なんでも大変に相違しているが、地理でも非常に変化している。現代で羽田というと直ぐと稲荷を説き、蒲田から電車で六七分の間に行かれるけれど、天保時代にはとてもそう行かなかった。 第一、羽田稲荷なんて社は無かった。鈴木新田という土地が開けていなくって、潮の満干のある蘆の洲に過ぎなかった。

「悪因縁の怨」江見水蔭(青空文庫)

末尾部(原文より)

海賊の娘は遂に旗本の奥方になり得ずして死んだ。 その墓は、朗羽山長照寺内に建てられた。六浦琴之丞は、一水舎宗匠及び市助と共に、一度墓参に来たが、間もなく又琴之丞も吐血して死んで、六浦の家は断絶して了った。琴之丞の肺病がお玉に感染したのか、お玉の方にその気があって感染したのか、そこは不明。 六郷川の中洲の蘆間にただ一度の契りから、海賊の娘と旗本の若殿との間に、業病の感染。悪因縁の怨は今も仰々子が語り伝えている。

「悪因縁の怨」江見水蔭(青空文庫)

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