道綱の母(田山花袋)のあらすじ・登場人物
蜻蛉日記の作者の嘆きと愛
- 歴史
- 恋愛
- 文字数
- 103,389字
- 読了目安
- 約3時間27分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
この作品について
『蜻蛉日記』の作者として知られる藤原道綱母を主人公にした田山花袋の歴史長編。作中では窕子と呼ばれ、少女時代から仕える侍女呉葉の目を通して物語が始まる。兵衛佐の家の三女で、美貌と歌才で評判の窕子のもとへ、「行く末は一の人」と目される堀川の殿こと藤原兼家から歌が届くところが出発点。日記に残る贈答歌や長歌を本文に織り込みながら、平安京の四季、物詣で、宮廷の噂などを背景に、男の心を頼みにできない女の嘆きと母としての思いを、旧字旧仮名の流麗な地の文で描く。没後の1936(昭和11)年刊『花袋全集』第12巻に「源義朝」「通盛の妻」と並んで収められた。
あらすじ
西洞院の兵衛佐の家に十歳から仕える侍女の呉葉は、三女の窕子と主従を越えて心を通わせてきた。美しく歌の上手な窕子のもとに、行く末は一の人となる堀川の殿・兼家から歌が届く。窕子は初めつれない返歌をするが、贈答を重ねるうちに心を引き寄せられ、兼家を通わせる身となる。父が陸奥守として遠国へ下り、窕子は別れを悲しみながら兼家の用意した家へ移り、横川の弥勒講に詣でて大雪に閉じ込められもする。やがて男子道綱を産むが、まもなく兼家の文箱から他の女への恋文を見つけ、戸を開けずに兼家を帰した夜には「歎きつつ」の歌を送る。兼家は坊の小路で遊び、河原近くに女を囲い、その女にも男子が生まれたと聞いて窕子は苦しむ。縫い直しに古い衣を届けられた日には涙を落とし、遠い父を思って長歌を詠み、兼家と長歌を交わしても心は解けない。長雨の夏、物忌で里に戻った窕子は、隣の廃宅に身を忍ばせる后の宮の妹登子と親しくなり、女が虐げられる世を語り合うが、登子は勅によって宮中へ迎えられて去る。咳の病を得た窕子は北山の寺に籠り、若い僧への淡い心の動きや、身分違いの恋に生きて尼となった老女の話に触れて、心の境地を改めていく。二年後、父は陸奥から老いて帰京し、兼家の世も近づくが、兼家がやさしい態度を見せても窕子は取り合わない。そして病んでいた母が急変し、窕子は兄長能・父・かをるらと臨終に立ち会う。母の死に窕子は昏倒し、介抱されて正気を取り戻すと、駆けつけた道綱の手を取り、夜には兼家も枕辺に座った。
登場人物
- 窕子 兵衛佐の家の三女。美貌と歌才で知られ、兼家を通わせて道綱を産む
- 呉葉 狛の里から来て窕子に仕える侍女。物語の多くは彼女の目を通して語られる
- 兼家 堀川の殿。行く末は一の人と目される貴公子で、多くの女のもとへ通う
- 道綱 窕子と兼家の間に生まれた男子
- 長能 窕子の兄
- 登子 兼家の妹。長雨の頃、窕子の里の隣の廃宅に身を忍ばせている
- 窕子の母 昔気質で、娘の身の上を案じ続ける
冒頭部(原文より)
呉葉は瓜の出來る川ぞひの狛の里から、十の時に出て來て、それからずつと長く兵衞佐の家に仕へた。そこには娘達が多かつたが、中でも三番目の窕子とは仲が好くつて、主從の區別はあつても、しん身に劣らぬほどの心を互ひに取りかはした。後には窕子のためにつけられた侍女のやうになつて了つた。
「道綱の母」田山花袋(青空文庫)
末尾部(原文より)
その話をきいて道綱がやつて來た。その時にはそれでも窕子はその手を取るやうにした。微かな笑ひもその口のあたりに上つた。『そら、母者はもう大丈夫! 安心なさいませ!』呉葉はかう言つて道綱をなだめた。夜になつて兼家もやつて來てその枕邊に坐つた。
「道綱の母」田山花袋(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。