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少女病(田山花袋)のあらすじ・登場人物

少女に見とれる男のむなしさ

  • 心理

田山花袋 1907年(明治40年)5月 「太陽」

文字数
11,771字
読了目安
約24分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

田山花袋が1907年(明治40年)、「太陽」に発表した短編小説。若く美しい少女たちを眺めることに、異常なまでの執着を抱く一人の中年男――いわば「少女病」に取りつかれた男の姿を、皮肉を交えて突き放して描く。毎朝の通勤電車で令嬢や女学生に見とれ、われを忘れる男の日々を通して、美への倒錯した執着のむなしさを冷徹にとらえた、花袋の自然主義文学を代表する一編である。

あらすじ

郊外の千駄谷に暮らす一人の中年の男がいる。役所勤めのその男は、若く美しい少女たちを眺めることに、異常なまでの執着を抱いていた――いわば「少女病」である。毎朝、山手線の電車に乗り込むと、彼は車内の令嬢や女学生の、美しい眼、白い襟首、黒い髪、ほっそりとした指に、うっとりと魂を吸い寄せられ、われを忘れてしまう。妻子ある身でありながら、道で見かけた美しい娘を思っては、あの娘はいったい誰の妻になるのかと口惜しがり、勝手な空想にふけって一日を過ごす。ある朝、いつものように混み合う電車のなかで、彼は一人の美しい令嬢の姿に心を奪われ、うっとりと見とれていた。乗客に押されて身体が車外へ突き出されそうになっても、なお令嬢から目を離さずにいた男は、発車のはずみに真鍮の棒から手を離してしまい、大きな毬のように線路へ転がり落ちる。そこへ運悪く上りの電車が走ってきて、男は無残にもひき殺され、一線の紅い血がレールを長く染めた――。美しいものへの倒錯した執着と、その果てのむなしい破滅とを、花袋が皮肉とともに冷徹に描いた自然主義の一編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木の電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、千駄谷の田畝をてくてくと歩いていく男がある。この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘の深い田畝道に古い長靴を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀にかぶって塵埃を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったからと、春眠いぎたなき主人を揺り起こす軍人の細君もあるくらいだ。

「少女病」田山花袋(青空文庫)

末尾部(原文より)

 ピイと発車の笛が鳴って、車台が一、二間ほど出て、急にまたその速力が早められた時、どうした機会か少なくとも横にいた乗客の二、三が中心を失って倒れかかってきたためでもあろうが、令嬢の美にうっとりとしていたかれの手が真鍮の棒から離れたと同時に、その大きな体はみごとにとんぼがえりを打って、なんのことはない大きな毬のように、ころころと線路の上に転がり落ちた。危ないと車掌が絶叫したのも遅し早し、上りの電車が運悪く地を撼かしてやってきたので、たちまちその黒い大きい一塊物は、あなやという間に、三、四間ずるずると引き摺られて、紅い血が一線長くレールを染めた。  非常警笛が空気を劈いてけたたましく鳴った。

「少女病」田山花袋(青空文庫)

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