縁結び(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
母の面影が結ぶ縁
- 心理
- 幻想
- 文字数
- 16,547字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
泉鏡花の短編(明治40年(1907)1月の成立)。東京へ発つ日、旅館で講演の疲れを休める紳士・清川謙造のもとを、前夜の宴会で朝顔を踊った若い芸妓が訪ねてくる。幼い日の思い出と亡き人の面影をたどりながら、雨の山の墓所へ向かう道のりに、かすかな怪異が添えられる。
あらすじ
旅館に泊まる紳士の清川謙造のもとへ、前夜の宴会で『熊野』の朝顔を踊った若い芸妓お君が訪ねてくる。謙造は昨夜、お君が子供のころに憧れた人に似ていると話していた。彼は、百人一首の挿絵そっくりだった向かいの家の美しい娘の思い出を語る。その娘は養子との不縁ののち里へ帰されて、産後に亡くなったと聞いていた。お君は、それが自分の母だったと悟って泣き崩れ、母の墓がどこにあるのかも知らないと打ち明ける。謙造は雨の山道を、自分の両親の墓がある丘の庚申堂へお君を連れていく。梟や額堂の鬼の絵におびえるお君を励まし、堂の古い机の前で、数日前にそこで母の幻を見たこと、幼い日にお君の母に手を取られて自分の亡き母の戒名を書いた記憶を語る。お君は机に伏して気を失い、謙造の腕の中で目を覚ます。雨は上がり、堂には薄月がさして、遠くで梟が鳴く。
登場人物
- 清川謙造 東京から来た紳士。講演のため旅館に滞在している
- お君 前夜の宴会で朝顔を踊った若い芸妓
- 仁右衛門 山の回向堂の堂守
冒頭部(原文より)
襖を開けて、旅館の女中が、 「旦那、」 と上調子の尻上りに云って、坐りもやらず莞爾と笑いかける。 「用かい。」 とこの八畳で応じたのは三十ばかりの品のいい男で、紺の勝った糸織の大名縞の袷に、浴衣を襲ねたは、今しがた湯から上ったので、それなりではちと薄ら寒し、着換えるも面倒なりで、乱箱に畳んであった着物を無造作に引摺出して、上着だけ引剥いで着込んだ証拠に、襦袢も羽織も床の間を辷って、坐蒲団の傍まで散々のしだらなさ。帯もぐるぐる巻き、胡坐で火鉢に頬杖して、当日の東雲御覧という、ちょっと変った題の、土地の新聞を読んでいた。
「縁結び」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
襖がすらりとあいたようだから、振返えると、あらず、仁右衛門の居室は閉ったままで、ただほのかに見える散れ松葉のその模様が、懐しい百人一首の表紙に見えた。
「縁結び」泉鏡花(青空文庫)
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